エス・アイ・エム
代表コンサルタント(心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏
今や、“DX(デジタルトランスフォーメーション”:以下DX)という言葉を目にしない日はありません。日本政府もDXを最重要課題と明言しており、2021年9月にはDX推進のためのデジタル庁が新設される見込みです。(※1)
しかし、政府の意気込みとは裏腹に、未だにDXを単なるIT化と誤解している人は多いようです。DXが単なるIT化を意味しているのであれば、わざわざDXなどという言葉を使う必要はありませんし、デジタライズとかデジタライゼーション、もしくはそのままIT化でいいわけです。では、なぜDXという言葉がこんなにも取り上げられているのでしょうか?
経済産業省はDXの定義を、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としています。簡単に説明すると、DXとは「デジタルを利用した変革」のことです。デジタル技術を使って、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土をも変革することを目指しているのです。IT化が業務効率化などを「目的」として情報化やデジタル化を行うのに対し、DXは情報化やデジタル化を「手段」として変革を進めるための経営戦略そのものといえます。
一つの理由は「2025年の崖」と言われる大きなリスクです。「2025年の崖」は、「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」(経済産業省)がまとめたDXレポート(※2)で提唱された言葉です。企業がレガシーシステムを放置することで、DXが阻害されたり、システムトラブルのリスクが高まるほか、既存システムの維持管理費などが高額になることが指摘されており、2025~2030年の間で、年間最大12兆円の経済損失が生じると予測しています。原因は、レガシーシステムが補修や機能追加などを度々繰り返してきた結果、ブラックボックス化してしまったことや、度重なるカスタマイズにより、パフォーマンスの低下を引き起こしてしまうこと、古いテクノロジーに対応できる技術者が高齢化し退職したことで、人材の確保が困難になっていることなどによります。(例えば、1959年に開発されたプログラミング言語「COBOL」は、60年を経た今でも61.6%もの企業で使われており、エンジニアの確保が困難になっています。※3)
DXレポートには、「既存システムでは生き残れない」と記されていますが、「DXを推進しなければ今後のビジネスで勝ち抜くことはできない」のは明らかです。米国や中国の企業は、デジタル活用を前提としたビジネスモデルや価値創造をますます進めており、レガシーな日本企業が勝てるはずもありません。最新鋭ステルス戦闘機をプロペラ機で迎え撃とうとするようなものです。一例ですが、20年前にAmazonが日本市場に参入しました。当時の日本国内の書店数は2万1654店でしたが、現在は9,242店(※4)と半分以下です。2020年は「鬼滅の刃」のヒットでコミックスや郊外の書店の売り上げが好調だったというニュースもありましたが、それでも書店数は前年より約5%減少しています。書籍のネット販売や電子書籍の普及だけが原因とはいえませんが、Amazonという「黒船」の到来によって、それまで「太平の世」を送っていた書店業界が大きく変革の波に飲み込まれた結果であることは間違いないでしょう。今後他の産業でも同様のことが起こる可能性は高いのです。大きな変革の中にあっても企業を成長させ続けるためには、常に競争力を確保し続けなければなりません。
そのためにもDXは重要な鍵となります。書店の例を見るまでもなく、DXを進めていかなければ、競争力も持てずに自然淘汰される可能性は高まります。DXによって業務の生産性を向上させるだけでなく、生産性向上で大幅なコスト削減や省力化が実現できれば、リソースを新たなデジタル技術の活用によるビジネス・モデル変革に充てることができます。また、データの有効活用により、いち早く顧客行動の変化に対応したビジネスを展開することも可能になります。そうした新たなビジネスの創出や競争力確保などによって、経営戦略を修正し、拡充することができるのです。
新型コロナウィルスの流行により、世界中の企業が急激な働き方の変化を強いられている現状においては、「データとデジタル技術の活用によって、顧客や社会のニーズに基づいた製品やサービス、ビジネスモデルの変革を行おうとする」DXは、リスクを回避し、且つ、企業を存続させるために必要不可欠なものになっています。つまり、DXは事業継続の必須条件であり、そのためのIT投資の経営戦略が重要となるのです。(※5)新型コロナウィルスの影響によって業務の見直しを迫られ、当たり前の業務が当たり前でなくなっている現状は、従来業務の見直しとIT化が真価を発揮する時でもあります。つまり、今がDX推進の絶好の機会だといえるでしょう。
※2:「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」(経済産業省)
※3:還暦COBOLの利用実態:エンジニアを確保できない(日経クロステック)
※4:出版物販売額の実態2020(日本出版販売株式会社)
※5:IT経営が中小企業の生死を分ける~経営者に求められるIT活用とは(経理プラス)
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