首相襲撃事件から見える日本の危うい未来

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏

岸田首相の支持率低下が続いていましたが、4月15日を境に、突然支持率が10ポイント以上上昇しました。(※1)岸田首相襲撃事件が大きく影響していることは言うまでもありません。報道を耳にした多くの国民が安倍元首相の暗殺事件を想起したことでしょう。政権に批判的だったマスコミの論調も大きく変化しました。日本人特有の判官びいき的な感情が影響したのは間違いありません。

安倍元首相暗殺事件においても、事件以降、安倍政権に批判的な論調は激減し、一部では英雄であるかのように持ち上げられました。判官びいきや死者に鞭打たないという日本人特有の気質が影響しているからでしょう。

今回の襲撃事件は、こういう言い方をすると非難を浴びるでしょうが、岸田首相にとっては起死回生の出来事だったと言えます。「骨太の方針」、「新しい資本主義」、「異次元の少子化対策」などといった言葉だけで何の具体策も打ち出せない中では、支持率下落に歯止めが掛からないのも当然のことです。まさに九死に一生を得た感があります。それゆえ、支持率アップを狙った巧妙な自作自演だという根拠のない風説もありますが、一切の政治的成果なしでこれほど効果の出た「出来事」はなかったでしょう。現実に支持率は大幅に上昇し、不支持率を逆転したわけです。

逮捕された岸田首相襲撃犯の思想や背景などは今のところ憶測の域を出ていませんが、犯人には強く鬱積した歪んだ感情があったように伝えられています。安倍元首相暗殺犯のケースでは、犯人の家庭崩壊の原因となった旧統一教会への恨みが、強いつながりのあった安倍元首相の暗殺への引き金になったとされています。ここにも動機に繋がる強く鬱屈した不満や感情があったわけです。

歴史を振り返ると、大正10年の原敬首相の暗殺やその約1ヶ月前にあった安田善次郎安田財閥総帥暗殺事件などにも、類似の鬱積した歪んだ動機が背景にありました。ターゲットとなった人物が実際に法律や道義に外れたことをしていたかどうかは関係ありません。犯人には鬱積した不満や怒り、鬱屈した感情が溜まっており、その矛先がターゲットとなった被害者に向けられた結果であったわけです。また、これらの事件後には、国民に鬱積した不満が日本を戦争へと突き動かす大きな原動力となりました。

時代は異なりますが、格差拡大により富裕層や特権階級に向けた不満を募らせる国民が増加したという背景には共通点があります。こうした社会的な歪みが産むテロや反社会的行為は、その歪みが大きく拡大し、影響を受ける人が増えるほど発生率が上昇するだけでなく、不満の矛先が富裕層に限らず一般国民や社会的弱者に向けられることも少なくありません。近年、社会的弱者や関係のない一般市民に向けられた凶悪犯罪が増えていることも決して無関係とは思えません。今の日本の状況が改善されない限り、こうした反社会的行為が増加していくことになるのではと老婆心ながら大きな危機感を抱きます。

最新の犯罪白書によると、殺人事件の被害者構成は、46%が親族、38.4%が面識ありとなっており、犯人と関係のない人の比率は圧倒的に少ないと言えます。(図:主要罪名別検挙件数の被害者と被疑者の関係構成比参照)また、厚生労働省の人口動態統計から、殺人事件そのものも減少傾向(図:他殺による死亡者数の推移参照)にあることがわかります。

では、殺人事件が減っているから社会は安定していて、国民生活に不安が少ないと言えるでしょうか?答えは否です。これは統計の落とし穴です。全体の数字の推移と各事件の大きさ(影響力)は必ずしも比例しません。家族関係は50年前とは大きく変わっていますし、引きこもりやニート、低賃金で雇用が不安定な非正規雇用者、社会保障費不足の影響を受ける高齢者などの状況も50年前より大きく悪化しています。つまり、国民の潜在的な不安と現状への不満が大きく高まっていると言えます。経済的にも今の日本は、失われた30年を超え、失われた40年に向かっています。抜本的な改善政策が実行されなければ、いずれ国の存続すら危うい状況になりかねない未曽有の危機だといっても過言ではないでしょう。

今回の首相襲撃事件は、今の日本社会の闇のほんの一部分が表出したに過ぎません。犯人個人の異常性や特異な思考による一過性の出来事として終わらせることに大きな危機感を覚えます。鬱屈した不満や不安を抱えた人が増えれば増えるほど、大きな社会的混乱につながるような重大事件が起きるリスクが高まることは歴史が語っています。 不安感を煽ることで政治的利用を図る為政者やそれに組するインフルエンサーなどの発言には十分注意すべきです。国民の不安を煽るのではなく、明るい未来への道筋を語れる政治家の登場が待たれます。

最後にナチス最高幹部だったヘルマン・ゲーリングのニュンベルグ裁判での言葉を記して筆を置きます。

「国民は常に指導者たちの意のままになるものだ。簡単なことだ。国民に対し、我々は攻撃されかけているのだと危機感をあおり、平和主義者には愛国心が欠けていると非難すればいい。この方法はどの国でも同じように通用するものだ。」

※1:内閣支持47%に回復 7か月ぶり不支持を上回る【世論調査】(日テレNEWS)

https://news.livedoor.com/article/detail/24076248/

※2:令和4年版 犯罪白書(警察庁)

https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/69/nfm/mokuji.html

以上

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