トランピズムは「終わりの始まり」

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規

今やトランプ米大統領の言動について、見聞きしない日はありません。それだけアメリカ大統領の世界に与える影響が大きいということですが、それだけでなく彼のリーダーとしての特異性が関係していることは誰もが認めるところでしょう。彼の異色性は彼自身のキャラクターとトランピズムと呼ばれるその政治手法によるものです。

トランプ氏については、以前『「The Apprentice:ドナルド・トランプの創り方」を観れば…』(※1)でも触れましたが、その政治的手法の特徴は、独自のキャラクターに起因する個人崇拝的な性格を持ちつつ、ポピュリズムやナショナリズムを強く帯びている点です。単なる「トランプ支持者」にとどまらず、アメリカだけでなく国際秩序に長期的な影響を与える現象とも言えます。ナチスドイツのヒトラーが使った手法との類似点があり、その点からも非常に危険であると言えます。

トランプ大統領の政治手法は ポピュリズム + SNS発信 + 対立構造の強調 + アメリカ第一主義 を軸とし、従来の政治ルールを破ることで支持者の熱狂を獲得するスタイルです。つまり、大衆の不満を移民や中国、メディアやエリートを敵認定することで不満のはけ口を与え、同時に敵に対する攻撃や圧力、そして嘘や不確かな情報を喧伝することで大衆の熱狂的な支持を獲得する手法です。

トランピズムの危うさは、以下のような点に集約されると言えます。

1. 民主主義制度・司法制度の破壊

2020年大統領選での「不正選挙」主張の拡散により、民主的選挙そのものへの信頼が大きく揺らぎました。これは、選挙制度への不信煽動といえます。(※2)

また、大統領権限を拡大解釈し、司法や議会の独立性を軽んじている点(※3)や、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件とその後の恩赦のように、政治的暴力が容認される風潮を助長し(※4)、さらには大統領令の差し止め命令を出した判事を公然と批判することで、司法制度が大きく揺さぶられています。(※5)

2. 社会的分断を拡大

移民、マイノリティ、ジェンダーをめぐる対立を強め、社会的亀裂を深め(※6)、フェイクニュースや陰謀論を政治的武器として活用することで、メディアと真実の分断が行われました。同時に、都市と地方の対立を煽り、グローバル化で利益を得た都市部と、経済的に取り残された地方との溝を一層広げたことで、アメリカ社会に対話不能なほどの分断が拡大しています。(※7)

3. 国際秩序の破壊

国際協調よりも「アメリカ第一主義」を優先することで、国連などの国際機関や同盟関係の弱体化が進みました。(※8)人権や民主主義といった価値を軽視する発言で、権威主義体制に正当性を与え、国際規範が破壊されています。また、気候変動やパンデミック対応といった国際的協力をも阻害しています。(※9、※10)

4. 反知性主義とゼロサム的な政治スタイルの拡大

専門家や科学的知見への不信を煽り、科学的コンセンサス(例:気候変動、ワクチン)を否定する潮流が拡大しています。また、事実に基づいた政策や論理的思考ではなく、カリスマ的リーダーの言動を支持し、話し合いや妥協、協力よりも相手を「敵」とみなし、Win-Winよりゼロサム的な政治スタイルが支持されるようになっています。(※11)

こうしたトランピズムの思想は共和党内外に深く根付いており、おそらくトランプ大統領退任後もその構造的破壊の持続性によってアメリカ社会は長く影響を受け続けるでしょう。結果として、アメリカの民主主義と社会的結束は長期的に脆弱化し、国際秩序もますます不安定になる可能性が高いといえます。トランプ大統領の周辺はYes-manばかりとなっており、すでに「裸の王様」状態ですが、その「裸の王様」に対する支持者たちの熱狂は止まらないようです。今後ますます過激な言動や政策が増えていく可能性が高いでしょう。

しかしながら、トランピズムによる世界的な歪みがこのまま放置されることは世界的秩序の面からもないでしょう。アメリカが「世界の警察」から「アメリカ第一主義」に転換した時点からアメリカの求心力低下は始まっています。それに気付かずにトランプ大統領が他国への要求や圧力を加えるほど、それらは単なる大国の横暴にしかならず、アメリカの孤立化は進んでいくことになります。また、国内的にも過度で強引な移民排除が進んだために、アメリカ社会の底辺を支える労働力が失われ、社会経済活動への深刻な影響が現れつつあります。(※12)

長期的に見れば、トランピズムは世界的な社会構造の混乱とアメリカの孤立と国力低下をもたらす「終わりの始まり」となる可能性が高いといえます。

※1:「The Apprentice:ドナルド・トランプの創り方」を観れば…(The Stellar Journal)

https://www.stellarrisk.com/blog/f3pl7ld9j5y5yn4-2rynz-ck7dt-p4lhn-8smgl

※2:トランプ前米大統領、ジョージア州でも起訴 2020年大統領選に介入と(BBC News)

https://www.bbc.com/japanese/66507755

※3:トランプ政権 相互関税など 米連邦控訴裁 違法とした1審を支持(NHK)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250830/k10014907951000.html

※4:議事堂襲撃事件、大統領恩赦で大量釈放、世論調査60%が反対(Reuters)

https://jp.reuters.com/world/us/YNICBC23VNMHPCNCO3SUL3AH5I-2025-01-22/

※5:米国の分断が揺らす「法の支配」 判事への脅迫、5年で1000件超(日本経済新聞)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN12EAN0S5A610C2000000/

※6:エヴァンジェリカル向け公約を実行するトランプ大統領、6月の米最高裁判決で反トランスジェンダー政策が加速(東洋経済)

https://toyokeizai.net/articles/-/886953

※7:米大統領選は「エリートVSポピュリスト」の戦い 都市と地方の分断際立つ―作家マイケル・リンド氏(時事通信)

https://www.jiji.com/?ref=article

※8:国連 中満事務次長 トランプ氏の自国第一主義の広がりに危機感(NHK)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250128/k10014706261000.html

※9:トランプ政権の気候変動報告書に批判続出 誤りの指摘相次ぐ、訴訟も(朝日新聞)

https://www.asahi.com/articles/AST8X238BT8XUHBI00XM.html

※10:“トランプ大統領 各州感染症対応の政府資金打ち切り”米報道(NHK)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250327/k10014762151000.html

※11︰「ゼロサム」思考のトランプ氏に腹くくれ 政治学者ヤシャ・モンク氏(毎日新聞)

https://mainichi.jp/articles/20250517/k00/00m/030/109000c

※12:日本のマスコミが報じない「トランプ氏の移民排除」の成れの果て(President on-line)t

https://president.jp/articles/-/102331

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