憲法改正というアナクロニズム

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規

◆ 防衛費増大と憲法改正の影で、国民生活は守られているのか 

今、日本は大きな転換期に差し掛かっています。

高市政権は憲法改正の発議に向けて着々と準備を進めているようです(※1)。

一方で、国民生活は、円安の進行による物価高によって深刻な打撃を受け続けています(※2)。さらに、山梨地震、熊本地震、千葉豪雨と大規模災害が相次ぎ、国民の不安は高まるばかりです。しかし、こうした災害への政府の対応はあまりに遅く、危機管理能力に対する疑問の声も上がっています(※3)。

◆ 災害対応の遅れが示した「政府の危機管理能力の欠如」 

山梨地震の際には、高市首相の会見をめぐって「酔っているのではないか」といった憶測まで飛び交いました。さらに、自民党福岡県議団会長が地震直後にパーティーを開催し、その後「やってよかった」と発言したこと(※4)も重なり、政府・与党である自民党が、本当に国民に寄り添った政治を行える組織なのか、強い疑問を抱かざるを得ません。

◆ 防衛費は2.25倍、防災費は6割減 ― 国民生活より「別の優先順位」があるのか 

ここに看過できないデータがあります。

年々増大する防衛費とは対照的に、毎年のように大規模災害に見舞われる日本で、防災関連予算が縮小しているという事実です。2014年には、防衛費4.88兆円に対し、防災費は4.73兆円と、ほぼ同規模でした。しかし本年度は、防衛費が約2.25倍の約11兆円に増大した一方、防災費は6割近く減少し、1.94兆円にまで縮小しています。

この数字を見る限り、政府・自民党が、国民生活の安心・安全を最優先にしているとは到底思えません。2年前にこのThe Stella Journalに「過去に学ばず、未来を見ない日本人」という記事を書きました。(※5)能登の震災の際の行政の対応について、イタリアとの比較で日本の問題点を指摘しましたが、2年経っても何も改善されていません。被災した国民を守るより、防衛費を増やすことを優先しているわけです。

政府は「周辺国の安全保障環境の悪化」を理由に防衛費の増大を正当化しています。しかし、そもそも周辺国との関係悪化を招いた要因の一つが、高市政権自身の外交・安全保障政策にあることも忘れてはならないでしょう(※6)。自ら緊張を高め、その緊張を理由にさらに軍事費を増やすのであれば、まさに「マッチポンプ」と言わざるを得ません。

◆ 円安軽視の政策が日本の国力を弱体化させた 

高市首相が円安の弊害を軽視する政策(※7)を続けた結果、日本の経済力と国際的な存在感は相対的に低下し、中国との差はますます拡大しています(※8)。

IMFによれば、2026年度の中国の名目GDPは日本の約4.7~4.8倍になると予測されており、その成長速度も日本を大きく上回っています。それに伴い、中国の国防費(予算案)は前年比7.0%増の約1兆9,095億元(約43兆円)となり、5年連続で7%台の伸び率を記録しています。

一方、日本の2026年度防衛関係費の当初予算は過去最大の9兆353億円、関連費を含めた総額は10兆6,000億円に達する見込みですが、中国の4分の一に過ぎません。すでに経済規模で大きな差が生じている現状を踏まえれば、中国軍と自衛隊の戦力差を冷静に直視する必要があります。防衛白書などのデータを基にAIが作成した一覧表を見ると、兵力には約10倍の差があるとされており、単純に兵力の不足を補おうとすれば、徴兵制の導入まで議論せざるを得なくなる可能性があります。

兵器の物量でも大きく後れを取っており、その差を埋めるために大量の兵器を購入すれば、円安によって高騰した武器調達費が国民生活をさらに圧迫し、国家財政を一層悪化させることにもなりかねません。そもそも、「防衛のために自衛隊を軍として強化する」という発想には、大きな矛盾があります。 

◆ 戦後81年間、日本を守ってきたのは「憲法9条」だった 

戦後81年間、日本が大規模な戦争に巻き込まれることなく平和国家として歩んでこられた背景には、憲法9条の存在がありました。戦争や武力行使を放棄し、戦力を保持せず、交戦権を認めないという憲法上の原則は、「日本は他国を攻撃する国ではない」という国際的な認識を形成する一因となり、日本の安全保障を支えてきたと考えられます。同時に、万一攻撃を受けた場合には防衛する実力を持ち、さらに日米安全保障条約に基づく同盟関係によって、「日本を攻撃すれば大きな代償を負う」という抑止力も形成されてきました。

しかし、憲法9条を改正し、日本の軍事的役割を大きく転換すれば、これまで日本が築いてきた「専守防衛の国」という国際的なイメージが変化し、むしろ周辺国との軍事的緊張を高める危険性があります。

憲法を変えることで、本当に平和を維持できるのでしょうか。本当に国民生活を守ることができるのでしょうか。私は、そこに極めて大きな疑問を感じています。 

◆ 憲法改正は本当に国民の未来を守るのか?

少なくとも私は、現政権が発信する情報や首相の発言、そして実際に進めている政策を見る限り、それが可能だとは到底思えません。同時に、高市首相とその政権、そして自民党を支持する人々に対しても、問いたいことがあります。なぜ、現在進められている政治が、私たちの生活や未来をより良いものにすると考えられるのでしょうか。自民党政権が進めようとしている憲法改正は、私には、明治以降の古い国家観への回帰、そして「戦争のできる国」への転換を目指す、復古主義的な政策にしか見えません。

◆ 最後に ― 私たちは何を選ぶのか 

改憲派が主張する「一度も一字一句変えられていない憲法は世界の化石だ」という批判も、憲法が実際にどのような役割を果たしてきたのか、その内容と効果を十分に検証しようとしない暴論だと思います。また、緊急事態への対応が不十分だという指摘があります。しかし、緊急事態への対応の多くは現行法令の整備・運用によって改善できる問題であり、それを理由として憲法改正を急ぐことには、別の政治的目的があるのではないかと疑わざるを得ません。そして何より危惧するのは、こうした政策に対して十分な検証や批判を行わず、ただ政権の方針に追随してしまうことです。自民党政権が進めようとしている憲法改正に異議を唱えず、政府の政策を無批判に受け入れてしまうのであれば、私たちは自ら考え、判断する主権者としての責任を放棄することになりかねません。憲法を変えることが、本当に私たちの安全と暮らしを守ることにつながるのか。軍事力を増強することが、本当に日本の平和を守ることになるのか。そして、この国をこれからどのような社会にしていくのか。今こそ、一人ひとりが冷静に考え、判断する必要があります。


※1:憲法改正 与党“緊急事態条項の条文化を”野党は賛否分かれる(NHK)https://news.web.nhk/newsweb/na/nd-20260816de44352

※2:(a) 続く円安と物価高の連鎖:政府の政策が自ら円安リスクを高める(&N 未来創発ラボ:野村総合研究 https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi/20260706.html

(b) 円安加速、透ける「インフレ退治」の日米格差(日本経済新聞) https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK235S00T20C26A7000000/

※3︰「あまりにも遅いです」千葉豪雨 発生5日後での関係閣僚会議開催に野党議員は絶句(女性自身)https://news.yahoo.co.jp/articles/392eb26cb8ba1ea7187c678af42ee10e98c43368

※4︰地震直後にパーティー「やってよかった」 自民・福岡県議団会長(毎日新聞)https://mainichi.jp/articles/20260730/k00/00m/010/176000c

※5︰過去に学ばず、未来を見ない日本人(The Stellar Journal)https://bit.ly/43fQI8i

※6:森山裕・自民党前幹事長が明かした対中外交の大失態(週刊ポスト)https://article.auone.jp/article/e9f20491-a3d1-4452-b0ba-097e4947d744

※7:日米協調介入でも消えない「日本売り」の芽、円安と金利上昇を招きかねない高市政権の積極財政(JBpress)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/96418

※8:GDP, current prices(IMF)https://www.imf.org/external/datamapper/NGDPD@WEO/WEOWORLD

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