各種トラストの長所・短所徹底比較

CDH会計事務所
米国公認会計士
武藤 登

米国トラストは、法律上の分類(Revocable、Irrevocableなど)と、税法上の分類(Grantor Trust、Non-Grantor Trust)が必ずしも一致しないため、まず税法上の分類を理解することが重要です。

次の表は、実務上最も重要な分類をまとめたものです。特にグリーンカードをお持ちで、長期滞在者として出国税のForm 8854の対象となる方は注意が必要です。

1.Revocable Trust(Revocable Living Trust)

最も⼀般的な⽣前信託です。

<所得税>

  • 委託者本⼈の 1040 で申告

  • トラストは無視(Disregarded Entity)

<Estate Tax>

  • 全財産が Estate に含まれる

  • IRC §§2036、2038 により相続財産

<Form 8854>

  • 委託者が実質所有者であるため、時価評価の財産に含める。

2. Irrevocable Grantor Trust

代表例として

  • IDGT: Intentionally Defective Grantor Trust

(相続税の節税・資産の値上がりを Estate から外す)

  • GRAT: Grantor Retained Annuity Trust

(値上がりする資産を低コストで⼦へ移転)

  • GRUT: Grantor Retained Unitrust

(GRAT の変形で毎年⼀定割合を受け取る)

  • ⼀部の SLAT: Spousal Lifetime Access Trust

(配偶者への資産移転と相続税対策を両⽴)

「取消不能」ですが、税法上は委託者が所有者と扱われます(IRC §§671〜679)。

<所得税>

委託者が毎年税⾦を⽀払います。

<Estate Tax>

ここが⼀番誤解されやすい点です。

Grantor Trust だからといって必ず Estate に含まれるわけではありません。

例えば

  • IDGT → 通常は Estate に含まれない

  • GRAT → 残存期間中は含まれる

  • IRC 2036・2038・2042 等が適⽤されるかどうか によって変わる

つまり、Grantor Trust = Estate に含まれるわけではありません。

<Form 8854>

8854 では、「出国直前に贈与したと仮定した場合に贈与税の対象になる権利」を所有しているかどうかで判定します。そのため、Grantor として所有している部分は通常8854 の資産に含まれます。

3.Irrevocable Non-Grantor Trust

委託者は税法上の所有者ではありません。

<所得税>

  • トラスト⾃⾝が Form 1041 を提出

  • 分配した所得は受益者へ K-1

<Estate Tax>

通常は委託者の Estate に⼊りません。

(ただし 2036 などの引き戻し規定があれば別。)

<Form 8854>

ここが重要です。

トラスト財産⾃体は通常 8854 には載せません。

載せる可能性があるのは

  • 受益権(Beneficial Interest)

  • 現在価値のある受益権

だけです。

IRS も「Non-grantor Trust そのものは Mark-to-Market 課税の対象ではない」としています。

4.Foreign Grantor Trust

海外トラストでも Grantor Trust なら考え⽅は同じです。

<所得税>

委託者が世界所得について課税されます。

<Estate Tax>

保有権限次第です。

<Form 8854>

Grantor 部分は通常含まれます。

5.Foreign Non-Grantor Trust

⽇本の⺠事信託などがこの分類に該当する場合があります。

<所得税>

トラスト⼜は受益者が課税。

⽶国受益者には Throwback Tax など、特殊なルールがあります。

<Estate Tax>

通常は委託者 Estate には⼊りません。

<Form 8854>

通常はトラスト資産は含めません。

受益権のみが評価対象となります。


Form 8854 で特に重要なルール

Covered Expatriate が Non-Grantor Trust の受益者である場合は、Mark-to-Market 課税の対象にはなりません。その代わり、出国後に受ける分配については、原則として課税対象部分に対して 30%の源泉徴収ルールが適⽤されます(IRC §877A(f))。

実務上のポイントとして、Form 8854 では「トラストの名前」ではなく、「出国⽇の前⽇に本⼈が税法上どの程度そのトラストを所有していると扱われるか(grantor trust rules)」が最も重要な判定基準です。そのため、同じ「Irrevocable Trust」であっても、設計内容によって相続税や Form 8854 での扱いが⼤きく異なります。

実務でよく使われるトラストの⽐較

① IDGT(Intentionally Defective Grantor Trust)

⽇本語では「意図的⽋陥グランタートラスト」と訳されることがあります。

「Defective(⽋陥)」という⾔葉が付いていますが、実際に⽋陥があるわけではあ

りません。

「所得税では Grantor Trust として扱われる⼀⽅、相続税では Grantor の財産に含め

ないように意図的に設計された信託」という意味です。

<仕組み>

例えば、

  • 1,000 万ドルの会社株式

  • 今後 3,000 万ドルまで成⻑しそう

というケースでは、親が IDGT へ株式を売却または贈与します。

すると所得税

  • 親が払い続ける

相続税

  • 将来の値上がり分は親の Estate に⼊らない

という⾮常に⼤きなメリットがあります。

誰が所得税を払う?

親(Grantor)が払い続けます。

これは⼀⾒デメリットですが、

実際には

親が⼦供のためにさらに財産を減らしてあげる

効果になるため、節税になります。


② GRAT(Grantor Retained Annuity Trust

⾮常によく利⽤される節税スキームです。

<仕組み>

親が例えば Apple 株 100 万ドルを GRAT へ移します。

その代わり 10 年間毎年 10 万ドルを受け取ります。

実務上のポイントとして、Form 8854 では「トラストの名前」ではなく、「出国⽇の前⽇に本⼈が税法上どの程度そのトラストを所有していると扱われるか(grantor trust rules)」が最も重要な判定基準です。そのため、同じ「Irrevocable Trust」であっても、設計内容によって相続税や Form 8854 での扱いが⼤きく異なります。

10 年後に残った株式は⼦供に継承されます。

もし株価が⼤きく上昇すれば、その上昇分は贈与税・相続税をほぼかからずに⼦供へ渡せます。

向いている資産

  • 創業者株式

  • Nvidia

  • Apple

  • Amazon

  • ⾮公開会社株

など値上がりが期待される資産です。


③ GRUT(Grantor Retained Unitrust)

GRAT と⾮常によく似ています。

<仕組み>

毎年その年の資産価値×5%のように毎年変動します。

例えば

今年 100 万ドルなら 5 万ドル

翌年 150 万ドルなら 7.5 万ドル

となります。

そのため市場価格が変動する資産には GRUT が向くことがあります。

ただし実務では、GRAT の⽅が圧倒的に多く利⽤されているようです。


④ SLAT(Spousal Lifetime Access Trust)

近年⾮常に⼈気があります。

<仕組み>

夫が 500 万ドルを SLAT へ贈与します。

受益者は

  • ⼦供

です。

すると夫の Estate からは外れます。

実務上のポイントとして、Form 8854 では「トラストの名前」ではなく、「出国⽇の前⽇に本⼈が税法上どの程度そのトラストを所有していると扱われるか(grantor trust rules)」が最も重要な判定基準です。そのため、同じ「Irrevocable Trust」であっても、設計内容によって相続税や Form 8854 での扱いが⼤きく異なります。

しかし妻は必要なら信託から⽣活費を受け取れます。

つまり、家族としては資産にアクセスできるまま、相続税だけ節税できます。

<メリット>

  • Estate Tax 削減

  • 配偶者が⽣活費を受け取れる

  • 資産運⽤も継続できる

<注意点>

離婚すると元配偶者は受益者ではなくなる可能性があります。

また、夫婦がお互いにほぼ同⼀内容の SLAT を設定すると、Reciprocal Trust Doctrine(相互信託法理)が適⽤され、税務上のメリットが否認されるリスクがあります。

以上

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