アテンション・エコノミー時代の国民のリスク
エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規
今やほとんどの日本人(に限らず世界中の人たち)が、毎日多くの時間をスマートフォンとともに過ごしています。
「ランチはどこで何を食べようか」「夕食は何を作ろうか」「友人は今何をしているだろうか」といった情報を、スマホの画面を通して調べたり眺めたりしています。こうした能動的な情報収集だけでなく、スマホが自動的に様々な情報を広告として流してくることで、むしろ人の側が情報に対して受動的(リアクティブ)になっているとも言えます。
例えば、近くの美味しい店を探そうと検索しているとネットスーパーの広告が勝手に表示されたり、新しい商業施設について調べていると不動産広告が差し込まれたりすることが当たり前になっています。恐ろしいのは、こうした状況があまりにも日常化し、私たちが「違和感」すら抱かなくなっていることなのです。
いまやネット空間は広告で埋め尽くされています。広告を消したければ「有料サービスに加入してください」と言われる始末です。もちろん、それがネット時代のひとつのビジネスモデルであり、資本主義の形であることは理解できます。
テレビやラジオのように視聴者全員に同じ広告を届ける手法から、個人がスマホやパソコンで閲覧した情報を基に、その人の属性や嗜好に合わせて広告を選び表示する手法へと変化しているのです。一昔前に「新語・流行語大賞」の候補にも選ばれた「ビッグデータ」の概念が、現実に効果的に活用される時代になったと言えます。ビッグデータとは「事業に役立つ知見を導出するためのデータ」であり、ビッグデータビジネスは「ビッグデータを用いて社会・経済の問題解決や業務の付加価値向上を行う、あるいは支援する事業」と定義されています。(※1)
現在、日本の総広告費は8兆623億円となり、4年連続で過去最高を更新しています。その半分以上をインターネット広告費(4兆459億円)が占めています。(※2)結果として、テレビ・新聞・ラジオなどのマスメディアが隆盛していた時代よりも広告量は大幅に増え、あたかも広告のような偽情報や詐欺などへの誘導の仕組みまでもが過度に強まっているように思えます。
人々の注意を惹きつける仕組みが経済的価値を生み出す「アテンション・エコノミー(関心経済)」が加速する中、高市政権は来年度の内閣広報室の予算として、本年度の10倍を超える約72億円を概算要求しました。歴代首相に比べて記者会見が少なく、偏っていると指摘されることから、記者会見での説明責任よりも政権のPRに注力していると批判が集まっています。アテンション・エコノミーが加速する中での今回の内閣広報室の巨額の概算要求は、極めて不自然であるだけでなく、非常に危ない印象を受けます。政治の動向を左右するのは「認知戦」であり、フェイク情報や世論操作によって人々の心理・認知・価値観を誘導し攪乱する手法が横行していることを考え合わせると、自ずとその意図が見えてきます。
2020年以降、立花孝志氏、石丸伸二氏、斎藤元彦氏などの政治家・活動家、参政党のような右派ポピュリズム政党が「〇〇現象」と呼ばれる熱狂的な支持を生み出し、日本の政治が歪められるようになりました。これらの現象に共通するのは、仮想敵(対立候補・既得権益層・マスコミなど)を「悪」として強調し、有権者の感情や不満に直接訴えかける文言や動画を大量に発信することです。その上で世論を誘導し、有権者の投票行動までも操作しようとする点にあります。そこでは正確な情報や真実よりも、世間の注目を集めること(バズること)が優先されます。
2013年に麻生副総理が「ナチスの手口に学べば」と発言しましたが(※4)、今回の内閣広報室の巨額の概算要求はまさにナチス・ドイツに倣ったプロパガンダ(大衆扇動)推進のための予算であろうと推察されます。ナチス・ドイツの戦略には、以下の3つの歪んだ大衆心理が徹底的に利用されました。
「大きな嘘」理論(Big Lie)
理性ではなく「感情と本能」へのアプローチ
「単純なメッセージの反復」(真理の錯誤効果)
詳細は省略しますが、現代のネット上に溢れるファクトチェックを無視した過激なフェイクニュースの拡散構造、知識人や専門家の客観的議論を排除し感情(怒り・恐怖・爽快感)を揺さぶることを目的とする情報、そして「嘘も100回言えば真実になる」という考え方――すなわち、シンボルや短いフレーズを日常生活で繰り返し目にさせることで「見慣れたもの=正しいもの」と錯覚させる手法――は、真理の錯誤効果そのものです。立花孝志氏、石丸伸二氏、斎藤元彦兵庫県知事、参政党が多くの支持を集めた背景にも、この構造がありました。
故安倍元首相も「悪夢の民主党政権」というフレーズを繰り返し、「嘘も100回言えば真実になる」を実践していました。現在は日本経済の柱のように語られるインバウンド需要について、故安倍元首相は自らの成果のように語っていましたが、そのきっかけとなったビザ緩和政策は民主党政権が実行したものです。(※5※6)
また、民主党政権時代に起きた東日本大震災による福島第一原発事故についても、あたかも「民主党政権の失敗」であるかのように語り継がれています。しかし、故安倍元首相は国会で「全電源喪失はありえない」と地震対策を拒否していた事実があります。(※7)
ナチス・ドイツの国民啓蒙・宣伝大臣ゲッベルスが作り上げた「嘘」に多くの国民が熱狂しヒトラーを支持していったように(※8)、現代でも容易に国民の熱狂や支持を作り出すことができます。実際、自民党は莫大な資金力を注ぎ込んで「高市旋風」を作り出し(資金源についての疑惑あり ※9)、経歴詐称や過去の失言、閣僚のスキャンダルなどがあっても未だに高い支持率を維持しています。(※10)
世界的にも極右政党の台頭や排外主義的風潮による分断・対立が拡大している背景には、プロパガンダが見受けられ、国家間の戦禍にも収束や和平の兆しが見えない状況にあります。(※11)だからこそ、一度立ち止まり、冷静に政治の「あるべき姿」について考える必要があります。
アテンション・エコノミーの時代において、人々の注意を惹きつけるのは文言以上に写真・映像・イラストなどの視覚情報です。AI技術の進化により、誰でも簡単に画像や映像を作り出せるようになりました。資金力や権力があるほど大量で精密な情報を作り出し発信できる時代です。センセーショナルな映像表現に注意を奪われ、脊髄反射的に反応・判断してしまうことは、作成者や発信者の意図に容易に乗せられることを意味します。
だからこそ、私たち国民に求められているのは、流布される情報をただ消費するだけの「受動的な存在」から脱却することです。
まずは、目の前の情報に即座に反応するのではなく、「これは誰が、何のために発信しているのか」と一度問いかけてみてください。その問いかけは、あなたの判断力を守る最初の一歩になります。そして、あなた自身の心と生活を守る行動でもあります。
民主主義は、国民一人ひとりの判断によって支えられています。注意を奪う者が力を持つ時代において、情報を読み解く力を身につけることは、未来を守るための、最も確かな行動なのです。
※1:「ビッグデータビジネスの時代」(翔泳社:鈴木良介著)
https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798125305
※2:2025年 日本の広告費(電通)
https://www.dentsu.co.jp/knowledge/ad_cost/2025/index.html
※3:高市首相、就任後の正式会見わずか6回 質問者54人を徹底分析、フリー記者は「ゼロ」(J-CASTニュース)
https://www.j-cast.com/2026/09/21518059.html?p=all
※4︰改憲巡りナチスを引き合いに 麻生副総理(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXNZO57891250Q3A730C1PP8000/
※5︰今月のキーワード/中国人観光ビザ緩和(みずほ総合研究所 アジア調査部)
https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F3509767&contentNo=1
※6︰日本政府、中国人観光ビザ緩和 消費拡大に期待(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS18024_Y0A510C1NN8001/
※7︰巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問への答弁書(衆議院第165回国会 答弁本文情報)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b165256.htm
※8:「ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男」(ドイツ映画)
https://www.goebbelsmovie.com/
※9:【スクープ】高市政権 第1月曜は“機密費の日” 毎月約1億円 上限まで使い切り(しんぶん赤旗)
https://www.youtube.com/watch?v=2s4Q3pYZ3gE
※10:内閣支持率42%に下落 簗氏続投判断、8割問題視(時事世論調査)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2026101500705&g=pol
※11:特集「ヨーロッパで高まる排外主義、その背景は」(TBSラジオ 荻上チキ Session)
https://www.tbsradio.jp/articles/100706/#goog_rewarded
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