経理の「仕組み化」が経営を強くする — 会計方針の文書化がもたらす便益
CDH会計事務所
クライアントサクセスパートナー
中尾 倫子
「誰が担当しても、毎月同じスピードで、正確な決算書が上がってくる」——これは、現地法人を率いる経営者や駐在員の皆様にとって、理想的な決算の姿ではないでしょうか。
米国の日系企業において、経理業務のスピードと安定性を高める最大の鍵は、「会計方針の文書化」にあります。日々のオペレーションを回すことで手一杯になりがちな現場ですが、会社のルールを一度文章として整理しておくことは、属人化を解消し、日本本社への説明コストを劇的に下げるための「攻めの経営インフラ」になります。
今回は、会計方針を文書化する重要性と、その具体的なアプローチについて述べたいと思います。
1. 会計方針の文書化による便益
会計方針を文書化する一番のメリットは、「月次決算の早期化と、チェック負担の軽減」です。会社のルールが担当者の頭の中にだけある(暗黙知の)状態を卒業し、しっかりと言葉で共有されていると、現場の動きはガラリと変わります。例えば、
担当者が変わっても、同じ基準で処理ができる:例えば、PCや備品の購入時に「何ドル以上なら固定資産(資産計上)にして、いくら未満なら一括経費にするか」の社内基準(閾値)が明確になり、処理が統一される。
管理者や財務責任者の方のレビュー工数が大幅に減る:基準が統一されることで、管理者が「なぜこの処理にしたのか」を都度確認したり、修正を指示したりする手間(レビュー工数)が大幅に削減される。
会社としての明確な判断軸が1枚あるだけで、現場の迷いがなくなります。
2. 外部監査や内部監査でも重要
また、現地法人の会計方針が文書化されていることは、定期的にやってくる外部監査や日本本社からの内部監査をスムーズに進めるうえでも重要です。
もし会社としての明確な方針書がない場合、監査人は「経理担当者個人の判断」に頼った管理体制であると見なさざるを得ません。そのため、過去の処理の経緯について細かな確認が発生したり、客観的な妥当性を証明するために通常以上の追加書類(サンプル)の提出を求められたりすることがあります。結果として、現地の経理スタッフが監査対応に多くの時間と労力を割かれることになります。
3. 日常業務と連動した段階的な作成
最終的に監査や本社の評価に耐えうる公式な規程集にするためには、すべての重要科目を網羅した高い完成度が求められます。しかし、タイトな日常業務のなかで、これらを一挙にまとめ上げるための時間を捻出するのは現実的ではありません。
いきなり全体に着手するのではなく、「貸借対照表(B/S)の上の科目(流動資産)から順番に、今月はこの3科目、来月はこの3科目」など、毎月作成のスコープを区切っていくことで限られられた時間の中で作業が可能です。例えば、今月は現金、売掛金及び売上の認識、翌月は棚卸資産と固定資産、など。
さらに、この進め方を成功させる最大の鍵は、「毎月の月次決算の現場で、スタッフが判断に迷ったことや、処理に時間がかかった気づきをその都度書き留めて、必要に応じて変更する」ことにあります。
重要なのは実際の業務に使える文書にすることです。理論的に正しいだけでなく、担当者が日々の処理で迷ったときに確認できる内容であることが求められます。
4. 最後に
会計方針の文書化は、属人化を防ぎ、判断の一貫性を保ち、月次決算を安定させるための実務的な取り組みです。また、新しい担当者への教育、レビュー効率の向上、監査対応、内部統制の強化にもつながります。
「誰が担当しても同じ判断ができる状態」を作ることは、経理業務の安定化だけでなく、会社全体の管理体制を強化することにもつながります。
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