ソーシャル・セキュリティの財政:積立金の枯渇は2033年と予測

ソーシャル・セキュリティ積立金の評議会は、毎年ソーシャル・セキュリティの財政収支予測を発表しています。2025年版レポートが2025年6月18日に公表されましたので、その内容について見てみましょう。

2025年版レポートの要点

今年のレポートでも、ソーシャル・セキュリティは引き続き、厳しい財政状況に直面していることが指摘されています。具体的には、

  • 老齢年金・遺族年金用の積立金(Old-Age and Survivors Insurance (OASI) Trust Fund)が枯渇する時期を、2024年レポートと同様、2033年と予測

  • 積立金がなくなっても、Social Security Tax等の収入で給付(老齢年金・遺族年金)の77%(2024年レポートでは79%)を支払うことができる

財政問題の原因

ソーシャル・セキュリティは、日本の公的年金と同じように、賦課方式(pay as you go)として設計されています。賦課方式というのは、ある時点の現役世代から徴収する掛金を使って、同じ時点の受給者の給付を支払うというものです。今の現役世代が将来受給者になった時、その給付を払うのはその時点の現役世代ということになります。

ソーシャル・セキュリティの給付が増え続けており、それが財政悪化の要因です。背景としては、ベビーブーマー世代のリタイアメント、平均寿命の伸長、少子化があげられます。1970年代までは10人から15人の現役世代に対して1人の受給者だったのに対して、現在は約3人の現役世代に対して1人の受益者というバランスになっています。問題の構図は、日本の公的年金の問題と同じです。

また今年は、Social Security Fairness Act of 2023によって、ソーシャル・セキュリティ給付を削減してきた2つの条項―Windfall Elimination Provision(WEP、棚ぼた防止規定)とGovernment Pension Offset(GPO)-が廃止されました(朗報!ソーシャル・セキュリティの棚ぼた防止規定(WEP)等を廃止する法律が成立)。これは、厚生年金との同時受給によりソーシャル・セキュリティ給付が減額(棚ぼた防止規定)されていた日本人には朗報でしたが、給付支払いの増加により財政予測にはマイナスに寄与しました。

早期に望まれる制度改革

ソーシャル・セキュリティの財政問題を改善する施策については、すでに様々な提案がされています。収入を増やすか、支出を減らす、またはその両方の施策です。

1980年代初頭の財政危機の際には、

  • ソーシャル・セキュリティ税率の5.4%から6.2%への引き上げ

  • 給付算定方式の引き下げ

  • 標準受給開始年齢(Full Retirement Age)の引き上げ

  • それまで非課税であったソーシャル・セキュリティを課税対象化

などの施策が行われました。

現在トランプ大統領肝いりの大型減税法案が上院で審議されています。トランプ大統領の選挙公約のほとんどの項目が法案に取り入れられていますが、ソーシャル・セキュリティ給付の非課税化は法案に含まれませんでした。ソーシャル・セキュリティ給付にかかる所得税は積立金に入ることになっていますから、このことはソーシャル・セキュリティの財政にとってはプラスです。

積立金がなくなっても、税収等で8割弱の給付をまかなえるという事実は重要です。ソーシャル・セキュリティが破産するということは、仕組み的にありえません。とはいえ、積立金が枯渇する直前の対応では、現役世代、リタイア世代双方に急激な変化が生じる可能性があります。それを避けるためには、早めに制度改革に着手することが望まれます。

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