日米間でよくある税務の勘違い3選

CDH会計事務所
国際税務コンサルタント
ハラ 基江

海外(日本国外)での生活や移住にあたって、税金の知識は非常に重要です。特に、日本とアメリカの間には制度や考え方に大きな違いがあるため、「日本では当たり前」の感覚がアメリカでは通用しないケースも多くみられます。今回は、日米間の税金においてよくある代表的な誤解を3つ取り上げ、その背景と注意点を整理します。

1「日本の年金は非課税だと思っていました」

日本の公的年金(国民年金や厚生年金など)は、一定額までであれば日本国内では実質的に非課税となります。しかし、アメリカに住む米国市民権保持者や永住者(グリーンカード保持者)、あるいは米国税法上の居住者には、全世界所得に対する課税される義務があります。そのため、たとえ日本で非課税だったとしても、アメリカではその年金収入を申告しなければならないことが一般的です。

また、年金が日本で源泉徴収されている場合であっても、アメリカでは税引前金額を申告する必要があります。そのうえで、二重課税を防ぐために外国税額控除などを通じて調整を行います。さらに注意すべきは、アメリカで居住している人が日本の年金を受給する際、日米租税条約を適用して日本の源泉徴収を免除してもらうとともにアメリカで課税対象となる取り扱いを受けるためには、所定の書類を提出する必要があります。これらを提出しない限り、日本では源泉徴収が継続されます。 

つまり、「日本で非課税だからアメリカも関係ない」、「日本で税金を引かれているからそれで終わり」、「日本で税金を払ったのに、またアメリカで申告すると二倍の納税になってしまう」というのは思い込みの領域であり、正しい手続きを踏んでこそ、日米の税制の整合がとれることになります。

2「日本の銀行口座はアメリカに報告しなくてよい」

アメリカに住んでいても、日本の銀行や証券口座、保険口座(総じて「米国外の金融口座」)を保有している方は少なくありません。しかし、「日本の口座だからアメリカに関係にない」と考えるのは危険です。

アメリカの市民権者・永住者・居住者は、米国外の金融口座の報告義務があります。具体的には次の二つが代表的です。

  • FBAR(外国銀行・金融口座報告書 Report of Foreign Bank and Financial Accounts)

  • Form 8938(FATCA関連報告書 Statement of Specified Foreign Financial Assets)

これらの報告を怠ると、たとえ意図的でなくても重い罰金が課される可能性があります。また、これらは単なる資産報告義務であり、課税そのものとは別問題です。しかし、IRSが海外資産を把握する上で非常に重視している分野であり、コンプライアンス強化の対象となっています。日本に資産を残している場合は必ず確認すべき項目です。

3「日本に住む妻の収入は、アメリカにいる夫の税務には関係ない」

アメリカに住む米国人の夫、そしてグリーンカードを持つ妻が日本に住み日本で収入があるケース。あるいは、アメリカに住むグリーンカード保持者の夫、その妻はアメリカの移民ビザを持たずに日本で働いているというようなケースでは、「妻の所得はアメリカと関係ない」と考えられがちです。しかし、アメリカの税制では、夫婦で「Married Filing Jointly(合算申告)」を選んだ場合、配偶者の全世界所得を含めて申告する義務が発生します。つまり、日本に住む配偶者の収入であってもアメリカでの申告が必要になります。この合算申告を行うためには、配偶者にSSNあるいはITIN(個人納税者番号)を取得しておく必要があります。ITINがないまま合算申告をすると、申告自体が無効になる場合があるため注意が必要です。

一方で、Married Filing Separately(個別申告)を選択することで、配偶者の所得を含めずに済むこともありますが、税率が上がったり一部の控除が使えなかったりするなど、税務上の不利が発生するケースもあります。また、仮に個別申告を選んでも、扶養控除の適用や外国税額控除、勤労所得控除などほかの条項で影響を受ける場合があるため、慎重な判断が必要です。 

おわりに

税務における勘違いの多くは、「知らなかった」「日本ではこうだった」という善意から生まれます。しかし、アメリカでは制度だけでなく、前提となる考え方(全世界所得・世帯課税・自己責任原則)そのものが大きく異なります。申告漏れや誤解を防ぐためには、自分の状況に即した制度理解と、必要な手続きの実行が不可欠です。日米をまたいで暮らすクロスボーダー人・クロスボーダー民にとって、税務の正確な理解は安心して暮らすための土台になります。気になる点があれば、早めに専門家へ相談し、制度を正しく味方につけていきましょう。

参考:

Report of Foreign Bank and Financial Accounts (FBAR) https://www.irs.gov/businesses/small-businesses-self-employed/report-of-foreign-bank-and-financial-accounts-fbar

About Form 8938, Statement of Specified Foreign Financial Assets  

https://www.irs.gov/forms-pubs/about-form-8938  

FAQs about international individual tax matters https://www.irs.gov/individuals/international-taxpayers/frequently-asked-questions-about-international-individual-tax-matters

日本年金機構 協定相手国別の注意事項(アメリカ)https://www.nenkin.go.jp/service/shaho-kyotei/kunibetsu/notice/usa.html 

国税庁 高齢者と税(年金と税)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/03_1.htm 

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