One Big Beautiful Bill Actトランプ大型税制改革法案が成立
CDH会計事務所
米国公認会計士
武藤 登
(7/7/2025 CCH Tax Briefingsより抜粋)
7月1日にJ・D・ヴァンス副大統領の決選投票により50対50の同数票を破り上院で可決されたことを受けて、7月3日、下院は上院版「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法」を可決しました。この法案は可決に向け、両院では数日間にわたる激しい議論、記録的な採決セッション、そして僅差の上下両院での可決を確保するための数々の交渉など、数日間にわたる精力的な活動が行われました。そして大統領は7月4日にこの法案に署名し、法律として成立しました。
この法案の要点としては;
期限切れが迫っている多くの税制条項の恒久的または限定的な修正
トランプ大統領が2024年の大統領選で公約した新たな条項、
グリーンエネルギーに関する条項の大部分の廃止または修正
そして個人や企業に影響を与えるその他多数の変更など数多くの税制改正が含まれています。税制改正以外にも、共和党多数派内で意見の相違が生じている点が多くありますが、反対派は法案成立のためにこれらの変更を受け入れたようです。
2017年減税・雇用創出法(Tax Cuts and Jobs Act of 2017: TCJA)は成立後、予算上の要件を満たすため、ほとんどの条項に期限が設定されました。
個人所得税率の引き下げ
標準控除額の引き上げ
人的控除の廃止
州税および地方税(State and Local Taxes: SALT)控除の上限設定
代替最低税の改正など
これらの多くの規定が2025年末に失効する予定でした。今回の法律が成立されなければ、連邦税制は2017年当時の規定にほぼ逆戻りしていたでしょう。
2024年の大統領選選挙期間中、トランプ氏をはじめとする多くの共和党議員は、これらの間もなく失効する規定を税制の恒久的な一部とすることを提案しました。この法案はまさにその通りですが、費用は高額です(10年間で5兆ドルという推計もあります)。この費用の大部分は、課税に関連しない多くの政府プログラムの支出削減と、インフレ抑制法から多くの「グリーン」税制規定が削除されることで相殺されます。
<個人向け規定の延長>
個人に適用されるTCJAの規定の多くは、2025年末に失効予定でした。これらには以下が含まれます。
2018年から適用されている10%、12%、22%、24%、32%、35%、および37%の税率区分
人的控除の廃止
代替最低税額控除額および控除限度額の引き上げ
住宅ローン利息控除の上限の引き下げ
雑損控除の上限
雑多な項目別控除の廃止
適格授業料プログラムからABLE口座への繰り越しの許可
本法はこれらの規定をすべて恒久化しますが、いくつかの修正を加えています。
住宅ローン保険料を控除が請求できる適格住宅利子として恒久的に扱う
未払いの教育者費用を雑多な項目別控除として控除できるようにする
また、本法により人的除額は永久に廃止されますが、2024年以降2029年まで、65歳以上の高齢者に対して一時的に6,000ドルの控除額が設けられます。
修正調整総所得が75,000ドル(共同申告者の場合は150,000ドル)を超える個人に対しては段階的に廃止
<標準控除額 : Standard Deduction>
TCJAは2017年以降に開始する課税年度の標準控除額をほぼ倍増しました。2025年のインフレ調整後の控除額は、夫婦合算申告者の場合は30,000ドル、世帯主の場合は22,500ドル、単身納税者および別々に申告する夫婦の場合は15,000ドルでした。これらの増額された控除額は2025年以降に失効する予定でした。
本法は2025年に開始する課税年度の標準控除額を増額し、その後はインフレ率に応じて増額するとしました。この法案によると2025年の標準控除額は、夫婦合算申告者の場合は31,500ドル、世帯主の場合は23,625ドル、単身納税者および別々に申告する夫婦の場合は15,750ドルとなります。
<SALT控除>
TCJAで最も物議を醸した条項の一つは、州税および地方税の控除額に1万ドルの上限を設定したことでした。2017年の法案が完成する前に、与野党の高税率州の議員(いわゆる「SALT議員連盟」)は、この上限額の引き上げまたは撤廃を目的とした法案を提出していました。
本法では2025年には上限額を4万ドルに引き上げ、2029年まで毎年1%ずつ引き上げて、2030年には1万ドルの上限に戻します。但し、上限額は納税者の修正調整総所得が一定額を超える金額の30%が減額されます。この一定額は2025年には50万ドル、2029年まで毎年1%ずつ引き上げられます。
<児童税額控除 : Child Tax Credit>
TCJAは2018年から2025年までの児童税額控除額を1,000ドルから2,000ドルに引き上げ、段階的な廃止の基準額をほぼ4倍の40万ドル(夫婦合算申告者の場合)、20万ドル(その他の申告者の場合)に引き上げました。
本法では控除の基本額を毎年のインフレ率に応じて2,200ドルに恒久的に引き上げます。児童税額控除の還付対象額(「追加児童税額控除」)は1,400ドルのままでこちらもインフレ率にに合わせて調整されます。また、控除を請求する納税者、納税者の配偶者(既婚の場合)、および控除の対象となる児童には、社会保障番号の保有が義務付けられています。
<相続税>
相続税の基礎控除額は、TCJAにより2025年までに死亡する被相続人に対して2倍に引き上げられ(インフレ調整後、2025年には1,399万ドル)、TCJAが失効した場合、2017年の額に戻るはずでした。
本法では基礎控除額は2026年に死亡する被相続人に対して1,500万ドルに引き上げられ、その後はインフレ調整後となります。
新たな個人向け規定
<チップへの課税廃止>
トランプ大統領が選挙運動中に最も重視した論点の一つは、チップ収入への課税撤廃でした。歴史的に、チップ収入は1980年代初頭まで課税対象ではありませんでしたが、レーガン政権下で成立した法律によって通常の収入と同様に扱われるようになりました。
本法ではチップを所得から除外するのではなく、チップとして受け取った金額を所得から控除することを規定しています。納税者は控除を申請するために控除項目を明記する必要はありませんが、社会保障番号の提示が求められます。控除額は25,000ドルを上限とし、納税者の修正調整後総所得が15万ドル(共同申告の場合は30万ドル)を超えると段階的に減額されます。但し、この控除は2028年以降に開始する課税年度には認められなくなります。
本法では従業員への現金チップに対する社会保障税の雇用主控除を美容サービス業界にも拡大するものです。
この控除は現在、飲食業界のみに適用されている
<残業手当への課税なし>
トランプ大統領は選挙運動中、残業手当を非課税にすることも提案しました。本法では納税者は1938年公正労働基準法第7条に基づき、受け取った残業手当の額を控除することができます。チップ収入控除と同様に、納税者は控除を申請するために控除項目を明記する必要はありませんが、社会保障番号の提示が求められます。控除額は12,500ドルが上限で、納税者の修正調整後総所得が10万ドル(共同申告の場合は20万ドル)を超えると段階的に減額されます。但し、この控除も2028年以降に開始する課税年度には適用されません。
<ソーシャルセキュリティ>
トランプ大統領は選挙運動中に、ソーシャルセキュリティ受給への課税を免除することも提案しました。しかし、上院法案にも下院を通過した法案にも課税を廃止したり控除したりする条項は一切含まれていませんでした。
<項目別控除の制限>
TCJA以前は、項目別控除の制限は高所得者層で段階的に廃止されていました。本法では、2025年以降、37%の所得税率区分に属する納税者に対する項目別控除の制限を復活させることが含まれています。
<自動車ローン利息>
現行法では個人の自動車ローン利息は控除対外の個人的利子として扱われていました。本法では、2024年以降に購入した自動車について、2025年から2028年までの自動車ローン利息を最大10,000ドルまで控除することを規定しています。この控除は項目別控除の対象者と日項目別控除の対象者の両方に適用されます。
<トランプ口座>
本法には「トランプ口座」と呼ばれる新生児向けの税制優遇口座の設立に関する規定も含まれています。この口座には新生児用に1,000ドルが積み立てられます。税制上の観点からは個人退職口座に適用されるものと同様のルールが適用されますが、子供も利用できます。
<追加条項>
上院法案には、以下の内容も含まれています。
奨学金提供団体への寄付に対する税額控除
529プログラムの対象を小学校、中学校、自宅学習の費用まで拡大すること
COVID-19時代における、項目別控除対象外寄付者に対する慈善寄付控除の復活
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