自分の政府を恐れるようになるとは思ってもみなかった!

ステラ・リスク・マネジメント・サービス(株)
代表取締役、公認会計士、認定与信管理相談士
スティーブン・ギャン

本号で、佐藤義規氏が「トランピズムは『終わりの始まり』」という記事を寄稿してくださいました。その中で佐藤氏は、アメリカの民主主義が権威主義の手口によって、レンガを一つひとつ壊すように崩されていく現実を描写しています。その言葉は決して誇張ではありません。今私たちは、自由の国アメリカが恐怖と威嚇の国へと変わりつつある瞬間を目の当たりにしています。

その象徴こそが、ICE(移民関税執行局)です。本来なら移民法を執行する役割のはずが、今では完全に暴走しています。危険人物や犯罪者を狙うどころか、何十年もアメリカで働き、税金を納め、家族を養い、ときには米軍で戦ってきた移民までもが狩り出され、拘束され、強制送還されているのです。真面目に生きてきた人々を踏みにじり、「報酬」として与えられるのは人生の破壊。こんな理不尽があっていいはずがありません。

ICEのやり方は恐怖そのものです。ヒスパニックやラテン系に「見える」だけで、市民でさえ標的になります。実際に、車の窓を叩き割られ、運転者が力ずくで引きずり出され、殴られ、怯える家族の前で連れ去られる、そんな残酷な話は珍しくありません。収容施設は人間的な扱いとはほど遠く、汚く、過密で、不衛生。人々は弁護士や家族に連絡する権利すら奪われ、ただ孤立させられます。さらに恐ろしいのは、アメリカ市民であるヒスパニック系の人々までもが誤って逮捕され、実際に国外追放された事例まであることです。見た目だけで権利を奪われる国で、一体誰が安全でいられるでしょうか。

この恐怖は、もはや移民コミュニティーだけの問題ではありません。地域社会、学校、職場と、どこにでも広がっています。親は子どもを学校に送るのにも怯え、迎えに行けなくなるのではないかと不安で眠れません。労働者は職場に行くのをためらい、「今日が普通の日で終わるのか、それともICEが踏み込んでくる日になるのか」と怯えています。これは「法の執行」ではありません。国家が堂々と人々を脅し、支配するための力を誇示しているにすぎません。

何より最悪なのは、最高裁判所までもがこの暴力にお墨付きを与えてしまったことです。外見や「合理的な疑い」だけで在留資格を問いただせると認め、差別を合法化してしまいました。その結果、数百万ものヒスパニックやラテン系アメリカ人が、国籍に関係なく「公の場に存在するだけで」拘束や嫌がらせの危険にさらされています。これは法の下の平等というアメリカの根本を踏みにじる裏切り行為です。

いま起きていることの一番恐ろしい点は、この「恐怖」が日常化しつつあることです。独裁は突然やってくるのではなく、少しずつ社会を蝕み、「異常」を「普通」にすり替えていきます。ICEが地域を襲い、長年住んできた人々を拘束し、劣悪な施設に押し込み、最高裁が人種差別を認める――それは民主主義の柱を弱めるどころか、完全に壊していく行為です。佐藤氏が指摘した通り、これは「終わりの始まり」なのです。政府は「国民に仕える存在」から「国民を抑圧する存在」へと姿を変えようとしています。

私は、自分の政府を恐れる日が来るとは思ってもみませんでした。しかし今、アメリカが本当に自由の国であり続けられるのか、それとも恐怖に縛られる国に堕ちてしまうのか、不安で胸が押しつぶされそうです。家族から引き離される移民、ICEに窓を叩き割られ拘束車へと引きずり込まれる人々、そして最高裁が差別を正当化する恥ずべき判決、これらすべてが、民主主義が瀕死状態であることを突きつけています。民主主義を守るためには、恐怖で人々を支配する政府に屈してはいけません。正義を、公平を、人間の尊厳を取り戻すために、市民、移民、支援者、擁護者である私たち一人ひとりが声を上げ、行動しなければならないのです。

記事の無断転載を禁じます。

————————————————

スティーブン・ギャン:全米与信管理協会(National Association of Credit Management)認定の与信リスク管理コンサルタント

与信リスク管理、債権回収、または取引信用保険に関するご質問やご要望がございましたら、以下までお気軽にご連絡ください。

スティーブ・ギャンへのお問い合わせ:
メールアドレス:s.gan@stellarrisk.com
電話番号:1-773-318-5187

Next
Next

知らないと一生課税!?グリーンカード放棄の5つの税金ルール