日本の国防、国民の安全、安心について考えてみる
エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規
5月11日の東京新聞で面白いコラムを読みました。元文部科学事務次官の前川喜平氏によるもので、領土と戦争を巡る思考実験というタイトルのコラムです。(※1)
前川喜平氏については、天下りあっせん問題や出会い系バー報道などがありましたが、天下りあっせん問題については衆議院予算委員会において「文科省と日本政府への(国民の)信頼を損ねた。万死に値する」として謝罪し、すでに懲戒処分が下されています。また、出会い系バー報道についても前川氏の主張である「女性の貧困問題の調査」を否定する事実は明らかになっておらず、また、援助交際や売春などでの摘発もなく、むしろ政府や自民党に対する不都合な主張への圧力という見方が有力です。前川氏の人物評価はともかく、あくまで一つの見解としてニュートラルに受け止めました。
前川氏の弁を借りれば、インドとパキスタン、ロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナなどの戦争は領土問題が根底にあり、台湾有事も中国の内戦という見方になる。過去の朝鮮侵略についても「朝鮮は日本のもの」という考えに起因しており、「神功皇后の三韓征伐」(※2)や「日鮮同祖論」(※3)などがその背景にある。日本の国防を考えた場合、領土的に日本を自分のものだと考える国があればそれは脅威となるが、歴史的に見ても13世紀のモンゴル帝国(元寇)以外にはなく、現在の中国やロシア、北朝鮮もそんなことは考えていない。中国や台湾も尖閣諸島のために日本と戦争することはありえないし、アイヌ民族や琉球民族が独立戦争を考えることもない。唯一日本を自分のものだと考える国があるとすれば米国になるが、日本が反逆しない限り戦争にはならない。「日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している」と政府は戦争の脅威を喧伝し、国民の不安や恐怖を度々煽っているが、そんな脅威は存在しない。以上が前川氏の主張です。
個人的には賛同できますが、100%脅威が無いかと言われれば、必ずしもそうではないように思います。歴史的に国民の不満が高まってきた際にその矛先を他国に向けるというのは、為政者の常套手段であり、国民の不安を煽るのはその一環でもあります。中国やロシア、北朝鮮が国内の不満の矛先を日本に向けさせることはあり得るでしょうし、これは過去に何度も行われてきたことです。あくまで国民のガス抜きが目的なのですが、コントロールを失って戦争になるということは十分に考えられることです。歴史を紐解くと、盧溝橋事件やサラエボ事件などのように意図しない出来事や予想外のアクシデントによって紛争が始まったケースは少なくありません。世論をコントロールしていたつもりが、アクシデントなどによって世論を止められなくなり、結果的に世論に突き動かされて戦争に突入してしまうわけです。
何の疑問も持たず政府の喧伝に乗ることはあまりにも愚かなことでしょう。できるだけ冷静に脅威の可能性を測ると同時に、果たして日本の国防や我々国民の安全・安心をしっかり考えて行われているのかを検証すべきでしょう。
軍事的な備えでは、自衛隊の戦力拡充の前に、防衛面の大きなリスクである原子力発電所について考えるべきです。ミサイルが一発落ちただけで広範囲な放射能汚染の脅威がある原子力発電所(発電炉)を狭い国土に33基(うち11基が稼働中、別に3基建設中、停止中22基:3月28日時点)も持っています。それ以外に廃止・廃止措置中も26基あります。それらをどうするのかをまず考えるべきではないでしょうか?(※4)節電や停電は備えられますし、受け入れられるでしょうが、被爆による健康被害や食品汚染、汚染によって住居や故郷を失うことはどうでしょう。
また、日本の不動産が海外資本に買われ、地方の観光地や水源、自然林なども海外資本に買い漁られています。都心の不動産価格は高騰の一途で、今や東京23区の新築マンションの平均価格は1億円を超えています。(※5)都心のタワー型マンションなどは海外投資家の投資対象であって、庶民の夢のマイホームとはなり得ません。憲法では国民の幸福追求権が保障されており、国民が個人として尊重され、生命、自由、そして幸福追求の権利が、公共の福祉に反しない限り、最大限に尊重されるべきであると規定されています。しかし、今や東京近郊ではマイホームすら庶民には高根の花で、そうした幸せを追求することも困難になっています。休日に訪れる観光地や水源、自然林などもすでに日本人の手を離れている可能性もあります。果たしてこれが故安倍元首相の描いた「美しい国」なのでしょうか?
米の価格高騰についても同様です。日本人の主食である米の価格は1年前の倍以上となっていますが、価格が元の水準に戻る見込みはほぼありません。(実際に私が1年ほど前に2,200円で購入した米5Kgが、現在5,200円ほどになっています。)備蓄米の放出もほとんど効果が見られません。国民の主食すらこの国の政府は守ることができていないのです。他の国で主食の価格がこれだけ高騰したら、暴動が起きるでしょう。実際、食料価格の高騰や物価高に起因した市民の暴動は様々な国で起きています。(※6、※7)市民生活の安心を担保できない政治など市民の支持を得られるはずがないのです。
食料自給率を見ると日本は、G7主要国の中で最も食料自給率が低く、わずか38%です。(※8)国民の日々の食事の6割以上を海外からの輸入に大きく依存しているわけです。主要国の食料自給率で対比されているオランダはヨーロッパ各国とは地続きなので食料の輸入も比較的リスクが低いと言えます。日本は四方を海に囲まれているので、空輸か海上輸送しか手段がありません。それがどれだけリスクが高い国土環境であるのか理解できるでしょう。もしも日本を攻めようと思えば、兵糧攻めは簡単にできますし、ミサイルを原子力発電所に打ち込めば、核ミサイルがなくても大きなダメージを与えることができます。こうした不都合なことには触れず、不安を煽って国民をコントロールしてきたのが自民党政権でしょう。政府は日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増していると言いますが、厳しいのであれば対策を講じるのが政治家の責任であり仕事です。武器購入だけに偏り、それ以外の不都合な事実に対してはまったくの無策というのが現状です。アメリカから大量に武器を購入するより先に、市民生活における安心安全の確保への道筋を立てるべきでしょう。そうでなければ、「日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している」というのは、アメリカの要求に従って大量に武器を購入するための便法でしかないでしょう。利権や不正という不都合な事実と無能政治から目をそらすための単なる目くらましということです。
※1:領土と戦争を巡る思考実験 前川喜平氏(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/404003
※2:有名な「対外戦争の指導者」にして「三韓征伐」を成し遂げた「伝説の人物」をご存知ですか(現代ビジネス)
https://gendai.media/articles/-/145795?imp=0
※3:日鮮同祖論(コトバンク)
https://kotobank.jp/word/%E6%97%A5%E9%AE%AE%E5%90%8C%E7%A5%96%E8%AB%96-1192840
※4:原子力発電所の現在の運転状況(原子力規制委員会)
https://www.nra.go.jp/jimusho/unten_jokyo.html
※5:東京23区、2年連続1億円超 新築マンション、最高値更新―24年度(テレ東BIZ)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025042100532&g=eco
※6:日本の食料自給率(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html
※7:食料価格2倍になり暴動「戦争終わらせて」 グローバルサウスの現実(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASR4X5JX9R4WUHBI03Z.html
※8:暴動に発展する国も…世界に広がる“物価高”デモ 日本は低水準?その“正体”は(テレ朝NEWS)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000258891.html
※9:【データから読み解く】主要国の食料自給率(ビジネス・ブレークスルー大学院 Online MBA)
https://www.ohmae.ac.jp/mbaswitch/food-self-sufficiency-rate/
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