NHK党立花党首の逮捕で考えるべきこと
エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規
「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏が逮捕されました。(※1)
驚くどころか、むしろ今までこのような人物が、一部とはいえ国民の支持を得て、好き勝手していたということに腹が立ちます。もちろん、彼が今回の逮捕理由で有罪となるかどうかはまだわかりませんが、少なくとも彼のやってきたことはこの国の政治や文化、制度や道徳というような、我々が所属する日本という共同体の規範や骨格を壊してきたということです。もっと言えば、人として守るべき最低限のマナーすら無視し、自分の利益を得ることに無心してきた人物であると言えます。今回の逮捕理由となった兵庫県の斎藤元彦知事の告発文書問題をめぐる騒動で亡くなった竹内英明元県議への名誉棄損だけでなく、様々な虚偽情報を発信し、国民を惑わせ欺いてきた人物であると考えます。
元朝日新聞社会部記者でジャーナリストの高橋純子氏は3年前に立花孝志氏にインタビューした際のことを次のように述べています。(※2)「3年前に立花さんにインタビューをしたことがあるんですけれども、はっきりと選挙は金儲けであるという風におっしゃっている。要は政党助成金ということで金儲けになるんだということですね。その時の立花さんの言葉なんですけれども、あえて言うと「バカどもの力を使うんだ」と。彼ら(有権者)は強いリーダーを望んでいる人から命令されることに慣れている人たちですからというようなことをおっしゃっている。」
そもそもNHK党の結党目的であった「NHKの受信料制度の是正」を進めるために推し進めてきた「受信料の不払い」という政策も、ここにきて大きく風向きが変わっています。(※3)彼の主張を信じてきた人たちはどう捉えているのでしょうか?
立花氏の政治的主張をまとめると、「NHK改革」という一点突破型の政策を軸に、既存政治への挑戦と情報公開の徹底を掲げるスタイルと言えるでしょう。しかし、そもそもの起点が政党助成金目当ての金儲けであり、そのために有権者の感じている閉塞感や不満を情報操作して、自分の利益となるように誘導するというのがその実体でしょう。典型的な情報操作の手法です。
こうした情報操作や誘導といった手法は、歴史的に見ても多くの為政者が行ってきた手法であり、大衆がそれに翻弄されて多くの犠牲者や被害者を生んできました。ナチスのプロパガンダは最終的にホロコーストという人類史上最悪の悲劇につながりましたし、太平洋戦争時の大本営発表も、戦争を長引かせいたずらに被害を拡大させただけです。また、イラク戦争におけるブッシュ政権の情報操作は、イラク戦争被害の拡大と中東地域の不安定化、そして過激派組織の台頭を招きました。
こうした情報操作の中心はいわば「偽ニュース(fake news)」ですが、その起源は20世紀初頭の第一次世界大戦の初頭に登場し、第二次世界大戦中にピークを迎えたそうです。(※4)
しかし、fake newsという言葉が使われなくても情報操作は古くから行われてきました。フランス革命後に登場したナポレオンも情報収集、そして宣伝活動を通じて情報操作を行い、自身の権力強化とイメージ形成を図りましたし、さらに古代ローマ人もユリウス・カエサルの言葉「多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」(※5)にあるように、情報操作やプロパガンダ、フェイクニュースに翻弄されていたようです。
ドナルド・トランプ米国大統領の嘘や暴言も今や日常となり、問題にすらならなくなっています。あまりに多すぎてアメリカ国民の感覚がおかしくなっているということでしょうか?しかし、日本においても同様のようです。安倍元首相の国会での118回もの虚偽答弁以降、日本国民も閣僚や政治家の嘘や虚偽答弁をことさら問題視しなくなっているように見えます。以前、「映えとフェイクが溢れる社会:物差しの無い時代」(※8)で指摘したように、むしろ、そうした嘘やフェイクに乗っかって自らもSNSなどでの拡散に関わる人が増えているようです。NHK党の立花党首がこれまで多くの支持を得てきたことも、そうした社会現象を利用し、さらに拍車をかけたように思います。
為政者はより巧妙に情報操作を行います。
はしゃぎすぎや媚びているなどと批判されていた高市首相の映像が、首相官邸Xでは180度印象が異なる映像になっていた(※9)などといった重箱の隅をつつくようなことではありません。令和の米騒動から始まった国民の主食「コメ」に関する政策の180度転換(※10)や日米首脳会談での80兆円対米投資についての日米政府の食い違い、防衛費増額などの重要事項(※11)について十分な説明が無いのは、まさに隠したい情報があり、情報操作の一貫ということなのでしょう。石破政権下で小泉進次郎前農水相が明言した減反から増産へという長く続いてきた自民党のコメ政策の転換も、高市首相が任命した鈴木農水大臣によって再び180度転換し、以前の減反政策へと回帰しました。
今回の令和のコメ騒動を過去のコメ騒動と比較すると、約100年ほど前に起きた1918年米騒動(日本近代史では米騒動といえば、こちらを指します。)の場合は、コメの価格高騰後半年足らずで騒動となり、打ちこわし(暴動)は全国に波及しています。その規模は1道3府37県の計369か所に上り、参加者の規模は数百万人まで膨れ上がりました。3府23県に10万人以上の軍隊が投入され、一連の騒動は約50日間にわたって続いたのち収束しました。今回は1年以上経過しても価格は下がっていませんが、暴動など国民の直接行動は発生していません。(立花氏の発言が頭をよぎります。)
私見ですが、今起きているコメの価格高騰(物価対策)と主食であるコメの安定供給(農業政策と食の安全保障)とは切り離して考えるべきでしょう。コメの価格高騰は国民の今の生活を守るために早急に解決しないといけない緊急問題です。一方でコメの安定供給(農業政策と食の安全保障)は長期的展望に立って作るべき政策課題であり、時間軸が大きく異なる問題です。それを「コメ」という括りで一つの問題として扱うことは、その時点で自らの無能を晒しているだけと断じざるを得ません。
報道各社の世論調査によると、自民党の政党支持率は20%台後半である一方、その自民党政権である高市内閣の支持率は60〜80%台だそうです。この支持率格差も謎ですが、高市政権下で行われている矛盾した答弁や政策転換の薄っぺらな説明を国民はどのように理解しているのでしょう?
もし、そのまま鵜呑みにしたり、無批判に従ったり、盲目的に支持しているのであれば、まさに立花孝志氏の言う『「バカども」のやること』になるのではないでしょうか。
※1:NHK党の立花党首を逮捕 元県議の名誉毀損容疑―兵庫県警(時事通信)
※2:高橋純子氏が立花孝志氏について語った内容(TBS:サンデーモーニング)
※3:「テレビを捨てろ」NHK党・立花孝志氏に支持者も呆れ顔(FRIDAY Digital)
※4:Did Facebook's Mark Zuckerberg Coin The Phrase 'Fake News'?(Forbes)
※5:多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない(新潮社「ルネッサンスとは何であったのか」塩野七生著)
※6:なぜトランプ氏はうそをつくのか 背景に魔力の衰え? NYTコラム(朝日新聞)
※7:安倍氏「虚偽」118回 「桜」巡り立民(日本経済新聞)
※8:映えとフェイクが溢れる社会:物差しの無い時代(The Stellar Journal)
※9:「はしゃぎすぎ」批判浴びた高市首相の米空母視察が→首相官邸Xがトップガンのような動画で伝え驚き(デイリースポーツ)
※10:「進次郎さんはピエロのような役回りに…」 コメ政策を「ちゃぶ台返し」した鈴木農水大臣(デイリー新潮)
※11:トランプ会談は大成功…高市政権がつくったストーリーの裏で「隠したかったこと」(AERA)
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