アメリカの徴兵制とジェンダー平等

現在(2025年7月)、アメリカでは徴兵制はありません。しかし、世界で戦争が終結していなく、ドイツではまた徴兵制を復活するかもしれない、というニュースを聞くと、アメリカでもまた徴兵制が復活するのではないか、と心配になってきてしまいます。

米国では、1973年7月1日に徴兵制度はなくなりました。現在は、軍隊は志願によって成り立っています。ただ、1980年代以降に、現在でも「18歳から25歳までの米国市民および特定の男性移民」に対して(永住権保持者も含む)、SSS(徴兵登録制度‐Selective Service System)への登録が法律で義務付けられています。

SSSとは、「国家の緊急事態において、軍隊に人員を迅速かつ公正な方法で供給することを主要な目的とする独立した連邦機関」です。必要に応じて徴兵を迅速に実施できるよう、準備を整えています。(参考文献:”Selective Service System”, Federal Register”)

ここで、「どうして男性のみなの?ジェンダー平等ではないの?」という疑問もでてくると思います。今の時代、名門士官学校でも女性を受け入れているのですから。

まず、米国の徴兵制度の歴史を簡単に説明します。

米国では、独立戦争時代から徴兵制度がありました。そして本格的な連邦レベルでの徴兵は、南北戦争時に導入されました。20世紀に入ると、第一次世界大戦(1917-1918)、第二次世界大戦(1940-1946)、朝鮮戦争(1950-1953)、ベトナム戦争(1964-1973)の時に大規模な徴兵制度が実施されました。

(参考文献:”History of Selective Service System”, Selective Service System”)
(参考文献:”The Draft in U.S. History”, Megan Threlkeld, Oxford Research Encyclopedias,” October 19, 2022)

ベトナム戦争終結時の1973年6月30日をもって、正式な徴兵制度は終了しましたが、緊急時に備えて、SSSの登録制は1980年に再開されました。当時のカーター大統領は、SSSの登録制度の再開だけではなく、女性も登録することを提案しました。しかし、上院軍事委員会がこの提案を支持せず、1981年、米国最高裁判所はRostker v. Goldberg 訴訟において、「男性のみに徴兵登録を義務付けることは合憲である」との判決をくだしました。当時は、「女性が主要な戦闘職務に就くことが制限されていた」ため、「徴兵の目的が戦闘部隊の人員を補充することであるならば、女性を登録する必要はない」というものでした。(参考文献:”Women and the Draft, a Decades-old Debate, the New Jersey State Bar Foundation,” October 16, 2019)

ただし、2013年には女性の戦闘職務制限が解除され、2015年12月には当時の国防長官カーター氏が、「全ての戦闘職務を女性に開放する」と発表しました。そのため、1981年のRostker v. Goldberg 訴訟での、判決結果が揺るぐこととなり、「男性のみの徴兵登録が憲法に違反する」という訴訟まで起きています。(参考文献:”Could Women qualify for the draft someday?  Here is what you need to know ,” Mariel Paddila, December 6, 2021)

現在(2025年7月)、女性はSSSに登録する必要はありません。しかし、ジェンダー平等を考えると、いずれ登録する必要もでてくるのではないか、と私は思います。

なお、米国市民権や永住権を持っている男性は、18歳になる30日前までにSSSに登録する必要があります。これは、米国で生まれて、すぐに日本に帰国した方も含まれます。18歳以下の米国籍または永住権をお持ちの息子さんがいるご家庭は、ご注意ください。

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