参議院選挙の結果がもたらすものは

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規

情報化社会と言われて久しいですが、今や情報は複雑且つ広範囲にまたがるようになっています。さらにはフェイクを含めて真偽不明の情報があまりに多く溢れるようになってきているため、正しい情報を得ることが年々難しくなっているように思います。正しい情報のインプットなしでは問題の本質を捉えることは難しく、当然解決策や向かうべき方向性すら正確に定めることが困難になっているように思います。

とはいえ、多くの場合、根拠のない憶測やもっともらしいフェイク情報に振り回されなければ、問題の本質を捉えることは可能ですし、問題を必要以上に複雑にすることも避けられるようになると言えます。

世界規模で見れば、地球温暖化、異常気象と生態系の変化、イスラエルとパレスチナやイランとの扮装、ロシアウクライナ戦争、トランプ関税、中国の軍事活動の活発化、といった問題があります。国内に目を向けてみれば、米価格の高騰、物価高、自然災害の頻発・激甚化、少子高齢化・人口減少の深刻化、社会保障費の急増とそれに伴う国民負担の上昇、2025年問題、インフラの老朽化による事故の多発と災害リスクの上昇、原発問題、排外主義の横行、国民の分断化の進行、ハラスメントの横行などといった問題が日々報じられています。

この中から二つの問題を例として取り上げ、問題の本質を考えてみたいと思います。

まず、イスラエルとパレスチナやイランとの扮装ですが、歴史的に見ても中東問題は根深く、簡単に理解するのは難しいように見えます。しかしながら、現在起きている問題は実は単純な問題です。日本のニュースではほとんど触れられませんが、イスラエルのネタニヤフ首相は詐欺、背任、収賄の罪で起訴され、5年以上前から刑事被告人です。(※1)また、彼だけでなく、その妻も公金の不正使用や詐欺などで起訴されています。(※2)これは、昨年11月にICC(国際刑事裁判所)が出した逮捕状(パレスチナ自治区ガザ地区への攻撃をめぐる戦争犯罪の疑い)とは全く別ものです。実際に逮捕される可能性が極めて低いICCの逮捕状とは異なり、有罪になれば最長10年の懲役刑の可能性があり、しかも裁判の中でさらに新たな罪が明らかになる可能性もあります。ネタニヤフ首相は、戦争や自身の体調不良を理由に延々と裁判の引き伸ばしを画策しており、6月11日の法廷でも再び体調不良を訴え、法廷は中断しています。その2日後にはイランを奇襲攻撃(※3)し、裁判再開の目処が立たないという状況になっています。権力者が自己防衛のために国外に危機を創り出し、国民の支持を集めることを国際政治学では「戦争の陽動理論」と呼びますが、まさにこのケースでしょう。戦争の勝利や人質の解放よりも、権力の座を守り、自分たちの罪を逃れるために行っている戦争というのが実態だと言えます。

日本国内に目を向けてみれば、今月20日に参議院選挙が控えていますが、マスコミは自民、公明の与党が大幅に議席を減らし、立民・国民・参政が野党第1党の座を争うとの見通しを報じています。(※4)自民党の不祥事や首相の商品券配布問題、コメの価格高騰への政府対応や消費減税への消極的な姿勢などを鑑みれば当然でしょう。

しかし、今回の選挙で気になるのは、「日本人ファースト」というフレーズです。トランプ大統領が掲げた「アメリカ・ファースト」や小池百合子都知事の「都民ファースト」などと印象が被りますが、その意味はまったく違います。「日本人ファースト」は、SNSを中心に排外主義やヘイトスピーチを扇動する目的に使われており、非常に危険なフレーズです。実際、「日本人ファースト」を掲げる参政党の神谷代表は、「いい仕事に就けなかった外国人の方は、資格を取っても逃げてしまう。そういった方が集団を作って、万引きとかをやって、大きな犯罪が生まれている」などと嘘の演説を繰り返しています。参政党や日本保守党の候補は、街頭演説で「外国人が優遇されている」との主張を繰り返し、犯罪や生活保護についても虚偽主張を強硬に繰り返しているのが目につきます。実際、「外国人が増えて治安が悪化した」と言う主張には根拠が無く(※5)、有識者や外国人支援団体関係者は、外国人の人口は増えても治安の悪化には全く繋がっていないとする見解を表明しています。(※6)

また、一部の候補者は街頭演説で「外国人は生活保護を受給する権利がない」とし、その上で日本人は受給申請しても「門前払い」で「外国人ばかりというのはおかしい」と虚偽の主張を繰り返していますが、これも事実ではありません。(※7、※8)

また、「中国人留学生に返済不要の奨学金1,000万円を支給」などの情報がSNSで拡散され、参政党の支持へとつながっているようです。これは文部科学省が行っている優秀な博士課程の学生に対して行われる「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」という支援制度を曲解したものです。(※9)この問題が拡大したために、6月26日に文部科学省より「研究奨励費(生活費相当額)支援の対象は日本人学生に限定する」との方針が出ました。(※10)2024年度の受給者のうち全体の4割が外国人で、かつ中国人が全体の3割を占めていたことに嫌中感情を持つ人たちが反発した結果ですが、これはむしろ国益を損なうものだと断じざるを得ません。世界トップレベルの研究を行うためには、優秀な留学生の確保は必須です。手厚い奨学金や研究資金を誇る欧米の大学に勝る支援制度がなければ、日本の大学が勝つのは困難であり、これは日本の国力低下に直結する課題です。日本の博士号取得者数は人口100万人あたり126人(2021年度)と先進国の中で最低レベルで、韓国の3分の1です。文系の博士号が「就活の障害物」などと言われている社会では、博士課程進学者が増えるはずがありません。変わるべきは制度や留学生ではなく、日本社会の側でしょう。国益を理由に世論を誘導している政治家の頭の中には「日本人ファースト」、すなわち「国益=排外」という思考が隠れているようです。

こうした虚偽の情報や「日本人ファースト」というあやふやな概念に振り回されているのは、一般市民だけでなく、メディアも同様です。100年ほど前には、日本人と朝鮮人という線引きや虚偽の情報(一部メディアも加担)によって、「朝鮮人虐殺」や「福田村事件」などの陰惨な事件が起きました。(「朝鮮人虐殺」については、小池都知事は追悼式典に追悼文を送らず、当時の議員が事件の詳細について帝国議会において追及したものの、首相が調査中と答えたまま90年後の今に至っています。)今回の選挙期間中でも「日本人ファースト」や参政党に関する報道は過剰であり、有権者を誤った方向に誘導しかねないでしょう。

今回の参議院選挙の結果はまだ分かりませんが、未だに虚偽情報が拡散され、それに影響された一般市民が極端な発言をしている状況を見ていると、戦前に酷似しているように見えます。

また、一方で憲法改正(改悪)に向けた動きがあることも知っておくべきでしょう。

日本保守党、参政党、維新、チームみらい、国民民主、自民といった政党の政策はバラバラですが、憲法9条2項(※12)の削除だけは一致しています。多種多様な主張があるように見えて、実は大きな動きは一つなのかもしれません。自民公明が過半数を割っても、参政党や日本保守党がその穴を埋めるでしょうし、改憲については上記6党が足並みを揃えることになるでしょう。今回の参院選で改憲議席の確保が進めば、選挙後に「国民の声」を免罪符として、憲法9条2項の削除へと進んでいくリスクが高いと言えるでしょう。

※1:イスラエル警察、ネタニヤフ首相の起訴求める 汚職容疑(BBC)

https://www.bbc.com/japanese/43054302

※2:Netanyahu's Wife Charged With Misuse of Public Funds(Bloomberg)

https://www.bloomberg.com/politics/articles/2018-06-21/netanyahu-s-wife-charged-with-misuse-of-public-funds-for-meals

※3:イスラエル イラン先制攻撃開始から1か月 停戦も不透明な状況(NHK)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250713/k10014861891000.html

※4:自公大幅減で過半数微妙、国民と参政が躍進 参議院選挙・終盤情勢(日本経済新聞)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA156CO0V10C25A7000000/

※5:外国人が増加すると治安が悪化するのか? 犯罪統計による検証(日立財団グローバル ソサエティ レビュー)

https://www.hitachi-zaidan.org/global-society-review/vol4/commentary/index.html

※6:「選挙運動の名のもとに露骨なヘイトスピーチが」参議院選挙(TBS報道特集)

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2042279?page=2

※7:生活保護は「受給権がない外国人ばかり」 参政党候補の発言は不正確(毎日新聞:ファクトチェック)

https://mainichi.jp/articles/20250712/k00/00m/010/134000c

※8:「生活保護世帯の3割が●▲人」SNS情報の「盛りっぷり」検証したら 国民健康保険「タダ乗り」説でも(東京新聞)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/420865

※9:次世代研究者挑戦的研究プログラム:SPRING(国立研究開発法人科学技術振興機構:JST)

https://www.jst.go.jp/jisedai/spring/

※10:博士課程の学生支援、生活費支給は「日本人限定」に見直しへ(読売新聞)

https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20250626-OYT1T50034/

※11:博士課程への生活費支援「日本人に限定・留学生は除外」が国益を損なう理由。(東洋経済)

https://toyokeizai.net/articles/-/889355?display=b

※12:日本国憲法(昭和二十一年憲法)第9条

https://laws.e-gov.go.jp/law/321CONSTITUTION#Mp-Ch_2-At_9

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