「Acknowledgment への従業員サイン」
Pacific Dreams, Inc.
President & CEO
Ken Sakai(酒井 謙吉)
以前、ある日系企業様で実際にあったHRのご相談事例をもとに、今回はお話ししてみようと思います。その事例というのは、弊社でその企業様が持っておられた従業員ハンドブックの見直しとアップデートを行なった後でのご相談でした。当該のハンドブックは、10年以上前にその企業様がアメリカで会社設立された際に作られた古いもので、その後いくつもの新しい法律の施行および改定があったため、かなりの見直しが必要となりました。そして私がその古いハンドブックを拝見して何よりも気が付いたことはそこにはアメリカでの雇用原則としてどの会社のハンドブックにも掲げられている ”At-Will” に関する記述がどこにも書かれていないということでした。
確かに ”At-Will Employment” は、1800年代の終わりごろからアメリカでの従業員採用の際に広く受け入れられている「判例法」、英語では ”Common Law” と呼ばれる法体系に類別される雇用原則になります。ですので、その名を関した法律がアメリカの連邦法あるいは州法のどこかに存在するというものではなく、現実には全米50州ある中で、49州が判例としてこの At-Will Employment を法的に認めています。(ただそれでも認めていない州が一つだけあり、それは唯一モンタナ州になります)
At-Will Employmentはもちろん日本では認められておらず、隣国のカナダやメキシコなどでも認められていません。欧州諸国でも認められていないため、アメリカのAt-Will Employmentは、グローバルに見ても極めて例外的で特殊な判例だと申し上げられます。恐らくそのために、アメリカ進出時に最初にハンドブックを作成した企業様では、あえてAt-Will Employmentを盛り込まないハンドブックに仕上げたのではないかと推測されます。ですが、幣社でハンドブックの見直しをした際に、At-Will Employmentの記述がないことに違和感を覚え、この記述を入れてアップデート版を完成させたのですが、その後にその企業のトップの方からご相談をお受けした次第です。
そのご相談というのは、アメリカで会社設立以来勤務を続けている経理担当のアメリカ人女性従業員がアップデートした新しいハンドブックのAcknowledgment にサインが出来ないと言ってきて何度もサインを催したものの未だにサインをしてこない、どうしたものかというものでした。会社に勤務を続けていく上で、新たに改訂されたハンドブックへのサインは必須のもので、それを拒むということは会社の就労自体を拒否することと同じではないかというのがトップの方の言い分でした。
確かに会社がこのハンドブックのAcknowledgment 、あるいは会社がオファーしたり、警告したりしたことに対するレターにサインを求めるということは従業員を雇用していく中で必ず付きまとうものです。その際に都度サインを拒否されたからただちに解雇できるのかというと、お答えとしてはそれはすべきではないということになります。長年務め上げてきた経理担当者がこのハンドブック改訂版のAcknowledgment へのサインを拒否した理由としては、まさに新たに書き加えたAt-Will Employmentにありました。彼女は会社がAt-Will Employmentではない雇用を提供してくれているという安心感が彼女には常にあって、解雇やレイオフなどを心配することなく10年以上にわたって安定した勤務を続けてこられたというわけです。
そもそもこのAcknowledgment というのは、あえてこの場面で日本語にすると「受領書」という意味になります。つまり会社は従業員に対して新しくアップデートしたハンドブックを渡した、そしてそのハンドブックを従業員が受け取ったということへの確認が最優先事項としてくるものと考えます。その反論としては、単に受け取りだけの印としてこのAcknowledgment へのサインを求めているわけではない、アップデートされたハンドブックを読み、中身を理解し同意したという承認のためのサインだと恐らくおっしゃられるのではないかと。
しかし、再度考えてみていただきたいのですが、ハンドブックの中には、ハンドブックは契約書ではないことも明記されているはずです。そうしますと、契約書ではないハンドブックのAcknowledgment へのサインを求めるための法的拘束力をいうのは、やや無理があります。ですので、Acknowledgment にサインをしなかったからといって、その従業員を解雇まで追い込むのもやはり無理に思えます。もちろん、Acknowledgment にサインしてもらうのが何とってもベストであるに違いはありませんが、サインを拒否したその当該従業員に対しては、At-Will Employment の箇所だけを除いたすべてのハンドブックへ記述へのサインを求めるということは双方の妥協案としてはむしろ可能ではないかと申し上げられます。
繰り返しますが、Acknowledgment は相手に受け渡して、それを相手が受け取ったことを証明する意味が第一義であるところから、例えば実際に紙で渡すというよりはメールでの社内送信で送るということが普通になってきている今日では、その送信記録と従業員の受信記録からでも十分このAcknowledgment としての役割は果たせるのではないかと考えられます。ことほど左様にアップデートしたハンドブックの事例だけに限らず、従業員にAcknowledgment へのサインを求める場合には、何が何でもサインを強要するというスタンスではなく、送受信記録をとる、従業員との間での微調整を行う、それでもサインを拒否した場合は、きちんとそのことについて上司が記録を残すということで対応を取ることが出来ます。そうはいっても再度申し上げますが、本人がそのままサインしてくれることが何といってもベストであることに間違いはないのですが。
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