説明責任型コンプライアンスとは
Pacific Dreams, Inc.
President & CEO
Ken Sakai(酒井 謙吉)
今回の記事は、ややリーガル的な色彩の濃い内容となるため、ひょっとすると弁護士ではない私があえてカバーすべき事柄ではないのかもしれません。ですが、弁護士ではない私ではありましても法令、とりわけ私の守備範囲であります企業の雇用関係に関するコンプライアンス(法令遵守)につきましては、それなりの一家言を持つ立場にありますので、最新の状況を踏まえながら皆様にこの記事をシェアさせていただきたいと存じます。
まず、表題に取り上げた「説明責任型コンプライアンス」という表現は、恐らく初めて耳にする方がほとんどではないでしょうか。英語では、”Accountability-based Compliance” となります。この一見風変わりな言葉が意味するのは、従来の単に法令を守る、もっと端的に言えば法律の条文に書かれてあることを守ってさえいれば、事足りるというというスタンスではなくなってきていることを暗示しています。つまり、単純に合法であるか違法であるかだけを問われることのみならず、そこに至るまでの企業の意思決定プロセスが論理的にかつ合理的に説明できるのか否かがいまや正される時代になったということを示唆しています。
現在のアメリカにおいては法曹界、規制当局、裁判所、陪審員などを含む社会の一般世論の形成上でのコンプライアンスの考え方あるいはその在り方について、確実に変化の波が押し寄せていることが感じられます。企業が法令を守っているかどうかも当然問われることに変わりはないのですが、企業がその意思決定に至るまでの社内プロセスの透明化が強く求められるようになってきているということです。企業としてその意思決定までにたどり着く過程を十分説明できなければ、一企業が構築してきた内部統制やコーポレートガバナンスももはや絵に描いた餅として外部的な機能を十分発揮することができなくなるリスクがあります。
そもそもこのAccountabilityという英単語には、本来会計用語から由来するところの説明責任という意味と、責任の所在という意味も含まれています。よくAccountabilityとResponsibilityの違いを聞かれることがあるのですが、両方の単語とも意味としては非常に近いものの、やはり責任の所在という意味合いでいけば、Accountabilityの方がResponsibilityよりもより重く深い意味があることが分かります。そのような微妙な言葉の使い分けの中で、日系企業としても法令を守るだけのスタテッィク(静的)なスタンスの状態からアクティブ(動的)なモデルのコンプライアンスにシフトすることが今後求められるようになります。
そのためには、コンプライアンスを机上の理論に据え置くだけではなく、企業としてどうコンプライアンスへのアクションを起こしているのかというところが問われるところとなります。そのアクションの一環として、企業がマネジメントおよび従業員に提供するトレーニングの重要性が浮かび上がってまいります。例えば、セクハラ防止および差別禁止ポリシーを自社の従業員ハンドブックに入れている企業がほとんどではあるものの、セクハラ防止・差別禁止のトレーニングを毎年欠かさず行っているかどうか、それは企業が果たすことのできる積極的なアクションとして見なされます。万が一、セクハラ訴訟が起こされたとき、自社でセクハラトレーニングを定期的に行ってきたということを示せるのがまさに企業にとってのAccountabilityということになります。
企業がポリシーを作っていて、それを従業員ハンドブックに載せて全従業員に書面で通知しているからというだけではもはや企業を十分に守ることはできません。万一の場合に備えて、形式的な机上におけるコンプライアンスだけではなく、より実践的で積極的なアクションを伴ったアプローチを企業現場で取れているのかどうかが問われることになります。自分たちの企業がある州には、セクハラ防止トレーニングを行わなければならないという法律はないので、特に何もやっていませんというのでは、仮に法律がないからトレーニングをやらなくてもよいという免罪符にはなりませんし、いざという時に雇用リスクを回避することもままなりません。
連邦行政機関であるEEOC(Equal Employment Opportunity Committee: 雇用機会均等委員会)では、セクハラ防止トレーニングの実施を強く推奨しており、そのためのトレーニングガイドラインも作成して告知しています。企業がアクティブなコンプライアンスに取り組む最も手っ取り早い方法は、従業員へのトレーニング提供に他ならないと思います。トレーニングは、Accountability-based Complianceを履行する上でも欠かせない、きわめて高価と意義のあるリスク管理アプローチであると申し上げることが出来ます。
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