なぜ駐在員規程が重要なのか
Pacific Dreams, Inc.
President & CEO
Ken Sakai(酒井 謙吉)
アメリカに晴れて法人設立を終了し、これから駐在員を日本から送り込む上でまずは、就労ビザの申請というハードルが待ち構えています。現在の政権になってからというものの、厳格な移民政策の下でビザ申請の敷居は間違いなく高くなってはおりますが、それでも日米通商協定に基づいて施行されているEビザに関しては、今までのところ、以前と比べてみてもそう大きな違いはなく、若干申請時間が長引いてはいるものの、Eビザは日系企業に対して手堅く発行され続けています。そういった中で、とかく後回しにされがちなものが、「駐在員規程」という一連のポリシーやルール作りになるのではないかと私は最近つとに感じておりますので、今回の駐在員規程をテーマに本コラムを書かせていただきます。
すでにアメリカに法人設立をして何年も過ぎ、日本から何人もの駐在員を送り込んでいる日系企業と、法人を設立したばかりでこれから駐在員を送り出す企業とでは、自ずとアメリカでの企業としての成熟度合いに違いがあるとお感じになられるのが通常でしょうが、現実にはそれほどの差がないというのが皮膚感覚上での実感です。多くの日系企業は、とりあえずアメリカに進出することが何といっても先決で、細かい規則や約束事はその後、取り決めればよいと考えているフシがあります。それがきちんとそうなっていればまだよいのですが、実際は進出して何年もたっているのに会社でのそのような規則やポリシーが相変わらず定められておらず、何もないまま時間だけが過ぎていくという状況が繰り返されています。
このような状況下で問題であるのは、企業として一貫した対応を従業員、特に日本からの駐在員に対して取れていない、その場限りでの対応で済ませてしまっているということになります。そうしますと、ある駐在員には対応していたのに、別の駐在員にはそうではなかったという不公平感が生まれてまいります。それは企業としての文書化されたルールがなかったからにほかなりません。ですので、まずは駐在員向けの文書化されたルールやポリシー作りから取り組まなければなりません。そう指摘をいたしますと、いや会社には従業員ハンドブックがあるから、それで対応していますというご反論が出てくることが予想されます。しかし、私が指摘しておりますのは、会社の従業員ハンドブックとはまた別のローカル従業員にはおよそ関係のない、日本からアメリカに赴任する駐在員だけに適用される規程を指しています。
日本から赴任されている駐在員にはそもそも現地採用の従業員とは異なる待遇や福利厚生が提供されています。それらのことを従業員ハンドブックに載せることは適切ではありません。かといって、何も文書化されていなければ、人によって対応がまちまちで、一貫性のない、不公平な対応になってしまう確率が高くなります。恐らく、多くの日系企業はここまで書けば、暗黙のうちに問題の所在をお感じになることではないでしょうか。問題の所在をお感じになってはいるものの、そのような駐在員向けの規程を作る時間も人材も社内にはないし、リソースも持っていないというのが偽らざるところではないかとお察しいたします。
理想としては、アメリカに法人設立をなされ、人を送り出す前後にそのような駐在員規程を作っておけば、進出後どんなに楽に済むか想像を働かせてみてください。もしまだ何も作られていない日系企業であれば、日本の本社を含め社内だけで対応するのは非現実的であると思います。社外のエクスパートであるその道の第三者機関に頼ることが一つのソリューションになると思います。その手の規定作りが遅れるほど、企業があとから受けるダメージも大きくなります。昨今、上場企業を中心に法令へのコンプライアンスや社内のガバナンスが叫ばれてはおりますが、その反面未だスキャンダルに見舞われる大手企業も散見されるところであります。しかも規程作りは何も上場企業だから必要であるとか、そうではない中小企業だから必要ないというような言い方も現実的に意味を持ちません。
いまやAIを駆使して駐在員規程を作るということも恐らくすでに形としては出来るのかもしれませんが、規程はあくまでも自社の駐在員のためのものであり、企業の身の丈に合ったものでなければなりません。つまり金太郎飴のような規程をAIが作っただけのものでは自社ではおよそ使えないものだと考えてみてください。AIの問題点は表面上は形にはなっていても、「仏を彫って魂入れず」になりがちだという点ではないかと思います。アメリカに赴任する駐在員のためになる現実的な駐在員規定作りというのは、想定するほどには簡単なものではなく、ハードルは確かに高いものだと考えられます。ですが、ここをなおざりにして駐在員をアメリカに送り続けるというのは将来的に大きなリスクになるかもしれないということは十分想定しておくべきではないかと申し上げられます。
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