大阪の高齢者介護施設で働く、介護福祉士の「アンナ」に聞く
Real Gaijin Podcast (Substack)
創業者兼発行人
Mark Kennedy(マーク・ケネディ)
日本の特定技能ビザをめぐる政治的論争の最前線――フィリピン出身のケアワーカーの実像に迫る。
日本の急速な高齢化は、介護保険制度にかつてない負荷をかけている。
この構造的なひずみを最も象徴的に示しているのが、特定技能(SSW)ビザ制度をめぐる議論だ。賛成派は、労働人口が縮小する中で外国人介護人材は不可欠だと主張する。一方で反対派は、移民拡大がもたらす社会的・政治的影響に懸念を示している。歴史的に移民に慎重な日本において、この議論は容易に収束しそうにない。
政治的なレトリックは過熱する一方だが、この議論にはしばしば欠けている視点がある。すなわち、現場で働く当事者である外国人ケアワーカー自身の声だ。
この現状に光を当てるため、「Real Gaijin」というサブスタックは大阪の高齢者介護施設で働く介護福祉士に話を聞いた。日本の医療・介護の最前線に立つエッセンシャルワーカーとして、彼女はフィリピンから横浜での研修を経て、大阪の介護施設に至るまでの道のりを語ってくれた。日々の業務内容に加え、日本の介護現場における人手不足について、現場からの率直な視点を共有している。さらに、急増する高齢者を誰が支えるのかという根本的な課題や、海外からの介護人材がより広く社会に受け入れられることへの願いについても言及した。
■ アンナの人物像
本インタビューではファーストネームのみの使用を希望したアンナは、フィリピンで正看護師の資格を持つ。現在は大阪の高齢者介護施設にて、介護福祉士として勤務している。
アンナはもともと、2021年から2025年までの期間、経済連携協定(EPA)に基づく介護福祉士候補者として来日した。その後、介護福祉士国家試験に合格し、正式な資格を取得している。
今回の取材は、彼女が「Real Gaijin」の記事「日本、外国人介護人材のルールを静かに書き換え──『一部合格』制度がビザ延長と介護人材戦略をどう変えるのか」を読んだことをきっかけに実現した。日本の介護現場で働く外国人の実情について、これ以上に適任の語り手はいないだろう。
■ アジェンダ
本インタビューでは、アンナのフィリピンから日本への歩みをたどり、EPA(経済連携協定)プログラムに参加した経験について詳しく聞いた。また、大阪での現在の介護職としての役割、日本における在留資格、とりわけフィリピンで取得した看護師資格との関係、そして今後も日本で生活・就労を続けていく意向についても議論した。
■ 主なポイント
本来であればさらに数時間は議論を続けられる内容だったが、今回の対話から浮かび上がった重要な示唆は以下の通りである。
日本の介護は、すでに構造的に外国人材に依存している。
外国人介護人材は単なる「穴埋め」ではなく、すでに日本の介護システムに組み込まれた存在となっている。アンナの勤務先では職員の過半数が外国人であり、彼女が働くこの4年間で新たに日本人の介護職員が入職したことは一度もないという。この事実は、国内人材供給の崩壊を強く示唆している。
さらに、若年層の日本人が介護職を敬遠する傾向も重なり、現場の「重労働」(物理的・運営的双方)は外国人スタッフに委ねられている。これは一時的な現象ではなく構造的な問題であり、抜本的な政策転換や労働市場の変化がない限り、日本の介護は今後も外国人労働力に依存し続けると考えられる。
高度人材を受け入れながら、その能力を十分に活用できていない。
日本の介護人材受け入れ制度には、効率性の観点から課題が存在する。アンナはフィリピンで正看護師資格を有しているにもかかわらず、日本では資格が認められず、介護職(いわゆるCNA相当)として働いている。キャリアアップのためには、フルタイムで勤務しながら日本語を学び、難易度の高い国家試験に合格する必要があり、事実上ゼロからの再資格化が求められる。制度として研修やマッチング、ビザの枠組みは整備されているものの、言語要件を含む長期的なプロセスが既存の医療スキルの活用を遅らせている。この点は、日本が高度な医療人材を必要としながらも、制度的障壁によってその統合を遅らせているという政策的ジレンマを示している。
移住の意思決定は文化ではなく経済合理性に基づいている。
アンナの語りから明らかなように、移住の意思決定は理念ではなく極めて現実的な経済判断によって行われている。
フィリピンは文化的な安心感を提供する一方で、日本ほどの雇用機会や賃金水準は期待できない。そのため、日本に留まるという選択は、労働市場の相対的な魅力に基づく合理的な判断である。
一方で、ビザ更新費用や永住権申請費用の引き上げといった政策的負担は、低賃金の労働者に直接的な影響を与える。例えば、政府は永住権申請費用を1万円から30万円へ引き上げる案を検討しているが、これはアンナのような個人にとって大きな負担となる。彼女は所得に応じた段階的な料金設定を提案している。また、各種就労ビザの更新費用の引き上げも予定されており、国家試験にまだ合格していない低賃金の介護人材にとっては、毎年の追加費用が大きな負担となる。このような制度変更は、日本が人材を引き付け、維持する競争力を低下させるリスクを孕んでいる。
外国人介護人材の貢献と社会的評価の間にギャップがある。
アンナは、多くの外国人介護人材が長年にわたる日本語学習や資格取得の努力を重ねた上で、身体的にも負担の大きい業務を担い、日本の高齢者、とりわけ百歳以上の高齢者や認知症患者といった最も支援を必要とする人々を支えている現状を強調した。しかし、その献身にもかかわらず、日本社会からの評価や理解は十分とは言えず、時には外国人に対する固定観念や否定的な見方に直面することもあるという。彼女の願いは単純であり、国籍ではなく個々人の行動や姿勢で評価してほしいという点に尽きる。外国人介護人材はすでに不可欠な存在であるにもかかわらず、その役割に見合った社会的認知と受容は依然として追いついていない。
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マーク・ケネディは米国シカゴ出身。30年以上にわたり日本で生活・就労し、現在は永住者として活動している。営業を起点とするキャリアの中で、米国の医療機器メーカーにて日米両国の事業に従事。営業・マーケティング・経営分野で管理職を歴任し、日本法人設立を主導した。フルブライト奨学生の経験を持ち、日本語にも精通。現在はサブスタック「Real Gaijin」を運営し、ビジネス、日本独自の文化、旅行をテーマに発信している。