知っておきたい相続の基本(米国居住者向け)

CDH会計事務所
国際税務コンサルタント
ハラ 基江

2025年3月28日掲載

知っておきたい相続の基本。大切な財産をスムーズに引き継ぐには?【基礎編】政府広報オンライン

この記事は、日本の相続制度の基本を整理したもので、アメリカに住む方にとっても非常に重要な内容です。まずは記事の要約を紹介し、その後に米国居住者への重要なポイントを補足します。

記事の要約

・相続とは

被相続人(亡くなった方)の財産や権利・義務を相続人が引き継ぐ制度。基本的なルールは民放(相続法)で定められ、「法定相続」と「遺言相続」がある。遺言があれば原則優先されるが、なければ法定相続分に基づき遺産分割協議を行う。

・法定相続人と順位

常に配偶者が相続人となり、直系卑属(子・孫)→直系尊属(親・祖父母)→兄弟姉妹の順。代襲相続の規定もある。

・相続分

複数相続人がいる場合の持分割合。遺言で指定された「指定相続分」が優先され、指定が無い場合は民放で定められた「法定相続分」を適用。

・相続の承認と放棄

  • 単純承認:すべて継承

  • 限定承認:プラスの財産(資産)の範囲でマイナスの財産(負債)も継承

  • 相続放棄:すべて放棄

いずれも相続開始を知ってから3か月以内に選択。

・遺言相続と遺言の種類

自筆証書遺言(自筆・日付・氏名・押印が必要)

2020年から自筆証書遺言の法務局保管制度が始まり、2023年に利便性が拡大。保管された遺言は家庭裁判所の検認不要。

・準備の重要性

事前の話し合いや遺言の活用でトラブルを防ぎ、スムーズな承継を可能にする。

米国居住者への重要なポイント

米国税務では、基本的に、日本の相続開始日(死亡日)ではなく、実際に財産を受け取った年が申告基準です。

  • 遺産分割協議や訴訟で受領が遅れた場合でも、経済的支配を得た時点・受領した年に米国外遺産からの遺贈とされます。

  • 米国外から年間合計10万ドル超を受領した場合、その翌年にForm 3520の提出が必要です。

  • 部分的に受け取る場合は、受領ごとに受領年の申告が必要です。

  • 米国外トラスト経由で受け取る場合は扱いが異なり、課税計算が絡むことがあります。

  • 将来売却に備え、取得時の時価・受領日・為替レートなど、記録を必ず保存してください。

海外送金・口座問題

相続財産を日本からアメリカへ送金する際や、日本の金融資産を直接引き継ぐ場合、日本側の銀行口座や証券口座を持っていないと手続きが複雑になります。多くの日本の金融機関は、相続手続きで財産を支払う場合、国内の銀行口座への振り込み対応しており、相続人が日本口座を持っていないと直接アメリカ口座に送金することは難しいです。対応策としては、日本口座を解説、代理受領、預かり口座の利用などが考えられます。

  • 日本への一時帰国時に、日本の銀行口座を開設することで送金の準備を整えられるケースもあります。ただ、新規口座開設にはマイナンバー取得や住民票登録(転入届)が必要なことが多く、日本の非居住者には手続きが困難な場合もあります。

  • 他の国内家族の口座に「代理受領」してもらう方法もあり、代理受領に関する文章を残しておくとトラブル防止につながるでしょう。

  • 相続手続きを代行する専門家(司法書士・弁護士事務所等)が「預かり口座」を開設し、一度そこに資産を集めた後、海外送金をする形も実務上の対策として使われます。

その他、実印と印鑑証明書、不動産登記等で住所証明が必要な場合など、署名証明、在留証明、納税管理人の選定届などの書類は時間がかかるため、早めの対応が必要でしょう。これらの対応は、「可能かどうか」を事前に確認し、必要な書類や手続きを整えておくことが重要です。

おわりに

日本の相続の基本ルールを理解することは、アメリカ在住にとっても大切です。米国税法上の居住者は、Form 3520申告義務や、海外送金・口座開設のハードルを念頭に置き、事前準備とスケジュール管理に気を配る必要があります。特に、アメリカ在住の方で日本の銀行口座がない場合は早めの対策をおすすめします。

参考:

政府広報オンライン『知っておきたい相続の基本。大切な財産をスムーズに引き継ぐには?【基礎編】』

Form 3520 Annual Return To Report Transactions With Foreign Trusts and Receipt of Certain Foreign Gifts

記事の無断転載を禁じます。

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