ICEはアメリカ版ゲシュタポだ!

ステラ・リスク・マネジメント・サービス(株)
代表取締役、公認会計士、認定与信管理相談士
スティーブン・ギャン

近頃、シカゴをはじめ全米各地で、移民・難民を標的にしたICE(米国移民関税執行局)の過激な取締りが、国民の良心を揺さぶっています。これらの行為はもはや「法の執行」とは呼べません。それは、最も弱い立場にある人々を脅し、恐怖で支配する「国家による弾圧」です。表向きは「移民取締り」でありながら、実態は残酷で非人道的な暴力へと変質しています。いまやICEは、まさしく「アメリカ版ゲシュタポ」と化しているのです。

牛乳を買いに行った祖母の悪夢

これは、シカゴ市民の間で知られている、ある50代の祖母の話です。30年以上アメリカに住み続け、孫3人(10歳、7歳、5歳)の面倒を見ていた彼女は、ある日、近所の食料品店に牛乳を買いに出かけました。店を出た瞬間、マスクをかぶった2人の男が突然走り寄り、彼女を地面に押し倒し、手首をプラスチック製の結束バンドで縛り、バンの中へと乱暴に押し込みました。彼女の悲鳴は誰にも届かず、男たちは一言も発さずに走り去りました。

後にわかったのは、彼らがICEの捜査官だったということです。令状もなく、説明もなく、ただ覆面をした連邦職員が「正義」の名のもとに人を拉致する――それが今のアメリカの現実です。祖母にとっては地獄のような数分間、孫たちにとっては一生忘れられない悪夢となるにちがいありません。

シカゴで繰り広げられる「軍事作戦」

シカゴは「聖域都市(サンクチュアリ・シティ)」とされていますが、ここでもICEの活動は急速に過激化しています。数カ月前に行われた「オペレーション・ミッドウェイ・ブリッツ」では、ICE捜査官が夜明け前にヘリコプターからロープで住宅屋上へ降下し、建物を急襲、数十人を拘束しました。その中には市民権を持つ者や子どもも含まれていました。ある女性は、「爆音で目を覚まし、廊下には重装備の男たち。テロかと思ったら、政府だった」と震えながら話しています。また、ある地区では学校の近くで催涙ガスが使用され、住民は「まるで戦場だった」と語っています。

報道関係者も被害者になっています。リンカーンスクエア地区では、WGN-TVのプロデューサー、デビー・ブロックマン氏が取材中、ICEの捜査官に地面へ押し倒され、結束バンドで拘束されました。彼女は、身分を示したにもかかわらず釈放されるまで1時間近く拘束され、後日、腕にあざが残りました。現在、ジャーナリスト団体と人権弁護士らが、ICEによる「報道弾圧」と「過剰な暴力」に対し連邦政府を提訴しています。

シカゴだけではない全米的な暴力の連鎖

こうした事件はシカゴに限られるものではありません。オレゴン州ポートランドでは、カリフォルニア生まれの米国市民フランシスコ・ミランダ氏が職場の外でICEに拉致され、数時間拘束されました。彼が「自分はアメリカ人だ」と何度訴えても無視されたといいます。フロリダでは合法で滞在する若者が誤って拘束され、アリゾナでは2人の子の父親がICE職員に射殺されました。全米のいたる所で、令状なしの家宅侵入や人種的プロファイリング、暴力的な逮捕が常態化しています。

この組織的問題は「行き過ぎ」ではなく「制度的な残虐性」です。捜査官たちはマスクをつけ、無標識の車両で移動し、氏名もバッジ番号も明かしません。つまり、被害者には法的手段も尊厳も残されていないのです。

ゲシュタポとの共通点

ICEを「ゲシュタポ」と呼ぶのは誇張ではありません。ナチス・ドイツの秘密警察ゲシュタポは、恐怖、不意打ち、匿名性を武器に国民を支配しました。彼らは令状なしに逮捕し、反対意見を封じ込め、絶対的権限をふるいました。今日のICEも同じ構造で動いています。黒いマスクをかぶり、戦術服をまとい、学校や職場、住宅街に突然現れ、人々を拘束し、家族を引き離す。目的は「法の執行」ではなく「恐怖の拡散」です。

両者に共通するのは、人間性の剥奪です。ゲシュタポがユダヤ人を「国家の敵」と呼んだように、ICEは移民を「不法者」と呼びます。呼び方が違っても、その本質は同じ――人間を「無名の存在」にしてしまうことです。

市民と子どもたちへの被害

ICEの暴力は、非正規移民だけに及ぶものではありません。合法永住者や米国市民も巻き込まれています。シカゴでは「外国人に見えた」「英語が流暢でなかった」という理由だけで市民が拘束される事件が相次ぎました。テキサスでは、デトロイト出身の退役軍人が3日間もICEに不当に拘束されました。

子どもたちは、家族が連れ去られるのを目の当たりにしています。学校では「ドアをノックされても開けないように」と子どもたちに教え、「あなたの権利を知ろう」というパンフレットが配布されています。心理学者は、ICEのやり方は取り締まりではなく「恐怖の演出」である、と警鐘を鳴らしています。

真実を伝える者への弾圧

ICEは今、批判の声を上げる人々にも手を伸ばしています。取材中の記者が逮捕され、祈りの集会に参加した牧師が催涙ガスを浴び、法的監視員までもが地面に押し倒されています。10月初旬、イリノイ州の連邦判事はブロードビュー収容所前で「報道関係者や聖職者への催涙ガスと唐辛子スプレーの使用を一時的に禁止」する命令を出しました。

本来、透明性を重んじるはずの公的機関が、いまや闇に隠れて行動しています。収容施設内の撮影は禁止され、家族には拘束者の行方すら知らされません。闇の中で行われる権力行使こそ、最も危険な暴力です。

それでも立ち上がる人々

この暗闇の中にも、希望の光があリます。シカゴ市は「学校、図書館、病院はICE立入禁止区域」と再宣言し、教会や市民団体は避難所や法的支援のネットワークを広げています。人権弁護士たちは次々と訴訟を起こし、連邦政府に説明責任を迫っています。しかし、ICEは巨額の予算と法的免責を持ち、改革は容易ではありません。必要なのは、一過性の怒りではなく、社会全体の道徳的覚醒です。

問題は「移民法を執行すべきかどうか」ではありません。それは、「その力がどのように行使されているのか」、そして「我々がそれを許しているのか」ということです。

恐怖から良心への転換を

祖母が牛乳を買いに行っただけで拉致される――そんな国で、「自由と正義」を語る資格があるでしょうか。恐怖を強さと勘違いし、残酷さを秩序と信じる国、それがいまのアメリカの姿。「ICEはアメリカ版ゲシュタポ」――この言葉は単なる比喩ではありません。それは警鐘であり、鏡でもあります。その鏡の中に、私たちは「恐怖が思いやりを殺す国」の姿を見ます。

もしアメリカが「法の支配」を名乗るなら、まずこの暴力を止めなければなりません。どんな政府機関も憲法の上に立つことはできません。人間の尊厳を踏みにじる取締りは、もはや「法の執行」ではなく「国家的犯罪」です。ICEが行う拘束はどれも、移民の罪ではなく、沈黙する社会そのものの罪を映し出しています。

記事の無断転載を禁じます。

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スティーブン・ギャン:全米与信管理協会(National Association of Credit Management)認定の与信リスク管理コンサルタント

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