保身が政治を支配するとき
エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規
アメリカのトランプ大統領、イスラエルのネタニヤフ首相、ロシアのプーチン大統領、そして日本の高市首相。政治的立場や国情は異なるものの、これらの指導者にはいくつか共通する特徴が指摘できます。
第一に、保守・右派的な政治姿勢です。自国の国益を最優先し、強い国防や伝統的価値観を前面に打ち出す点で共通しています。第二に、政治指導者としての「強さ」を強調する統治スタイルです。強いリーダー像を積極的に演出し、時に強硬な手法で政策を推進する傾向が見られます。第三に、国益を強調するポピュリズム的な政治手法です。「強い国を取り戻す」というメッセージを掲げ、ナショナリズムや愛国心に訴えることで強固な支持基盤を形成しています。第四に、多国間協調よりも二国間交渉や個人的関係に依拠する外交姿勢です。
こうした特徴については、すでに多くの研究者やメディアが分析しています。本稿で注目したいのは、これらの指導者にしばしば見られるもう一つの側面、すなわち権力維持と自己保身の問題です。
プーチン大統領については、自身に批判的な立場をとったジャーナリスト、元スパイ、反体制派指導者などが、毒物などを用いて暗殺されたり、不審な状況で亡くなったりするケースが相次いでいます(※1)。大統領の関与は公式には確認されていませんが、結果として権力は安定し強化され、長期にわたり事実上の独裁体制が維持されているのは事実です。長期化する戦争でも停戦を拒む姿勢や、国内統制の強化、国民の犠牲を顧みない政策姿勢を見ると、政権(権力)維持が国家利益より優先されているとの指摘が出るのも無理はありません。
ネタニヤフ首相については、日本のメディアでは大きく報じられていませんが、贈賄、詐欺、背任の罪で裁判が続いています(※2)。イスラエルやアメリカで上映が禁止されたドキュメンタリー映画『ネタニヤフ調書 汚職と戦争』(原題:The Bibi Files)(※3)を見ると、彼の政治姿勢の一端が浮かび上がります。批判的な立場からは、裁判(有罪)を回避するためにガザへの攻撃を続けているという見方もあります。(ネタニヤフ氏に対しては、プーチン氏同様に国際刑事裁判所(ICC)からの逮捕状が出ています。ちなみに、ICCの所長は日本人の赤根智子氏です。)
トランプ大統領については言うまでもなく、強い自己主張と攻撃的な政治スタイルで知られています。強気な言動から自信家に見えますが、その内面はむしろ不安の強さに由来するという心理分析も存在します(※4)。トランプ氏をめぐっては、セックス疑惑やロシア疑惑など数多くのスキャンダルが取り沙汰されてきました。現在問題となっているエプスタイン・スキャンダル(性的暴行疑惑)は、政治的にも大きな打撃を受ける可能性があります。(※5)そう考えると、ベネズエラやイランに対する強硬姿勢(※6)についても、国内政治との関連(権力維持のため)を指摘する見方が出てくるのは自然でしょう。これはネタニヤフ首相と類似した構図と言えるかもしれません。
さて、我が国の高市首相です。エプスタイン文書に関する国会質問に対し、「詳細を知らない。政府としてコメントする立場にない」と答弁しています。トランプ大統領が関与しているとされる疑惑だけに、触れたくない問題であることは理解できます。しかし、文書に名前が挙がっている伊藤穣一氏は千葉工業大学学長であり、デジタル庁の委員でもあります。政府として「知らぬ存ぜぬ」で済ませる姿勢が適切なのかどうかは、議論の余地があるでしょう。高市首相には、都合の悪い質問には答えず、最終的には開き直るという政治スタイルが見て取れます。2003年3月の参院予算委員会では「(私の)答弁が信用できないなら、質問しないでください」と発言しました(※7)。また総務省の行政文書問題では、自身の説明があった可能性が指摘された際、「行政文書は捏造だ」と強く反論し、文書自体の信頼性を否定しました(※8)。さらに2025年12月には、自民党議員の裏金問題について問われた際、「そんなことより議員定数削減」と答弁し、政治資金問題や旧統一教会との関係疑惑などの議論を深めないまま解散総選挙に踏み切りました(※9)。また2026年2月には、NHKの生放送討論番組を直前にキャンセルしたことや、ブログのコラムを全削除したことも記憶に新しいところです。
もちろん、誰にでも自己保身はあります。しかし、為政者の保身によって制度や法律、外交政策が歪められ、その結果として人命や財産が損なわれるとすれば、それは決して許されることではありません。民主主義において、国家の指導者は国民の代表です。国民の生命、財産、安全、安心を守ることが最大の責務です。そして、その責務を果たすための枠組みとして憲法が存在します。国家権力は憲法によって制約されているのです。しかし高市首相は、憲法を「国の理想の姿を物語るもの」と位置づけ、自民党が掲げる改憲4項目(自衛隊明記、緊急事態条項など)を含む憲法改正に強い意欲を示しています。憲法は本来、国家の理想像を語るものではなく、国家権力を制限し国民の基本的人権を守るための最高法規です。法律が「国民」を縛るルールであるのに対し、憲法は「国家(権力者)」を縛るルールです。国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という原則のもと、民主主義と立憲主義に基づいて国家の組織と運営を定めています。自民党改憲案は、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を損なうものであるとの批判があり、慎重な議論が求められています。権力者が自身の保身を優先することは許されません。そして国民も、それを許してはならないのです。それを許してしまった結果が、ロシア、イスラエル、そしてアメリカの現在の姿なのではないでしょうか。
歴史は繰り返し示してきました。権力者の保身を社会が許したとき、制度は静かに歪み始めます。ロシアではそれが独裁体制となりウクライナ侵攻につながり、イスラエルでは政治と司法の衝突を生みガザへの攻撃となりました。アメリカでは社会の深い分断を招き、さらにベネズエラやイランに対する攻撃へとつながったと言えます。民主主義は突然崩れるわけではありません。権力の自己防衛を見逃し続けることで、少しずつ侵食されていくのです。だからこそ問われるのは、権力者ではありません。それを許すのか、それとも止めるのかという国民の選択なのです。
※1:「プーチンの毒」は誰に盛られるのか? 毒殺国家ロシアの暗殺法(Forbes)
※2:トランプ大統領 汚職事件裁判続くネタニヤフ首相の恩赦求める(NHK)
※4:心理学博士が読み解くトランプの心の弱さ(Wedge Online)
※5:各国・各界に波及「エプスタイン・スキャンダル」関連ニュース(時事ドットコム)
※7:高市氏が「質問しないで」発言を撤回 参院予算委員長が異例の注意(朝日新聞)
※8:高市早苗氏「捏造」主張撤回せず 総務省の行政文書(日本経済新聞)
※9:高市首相の「曖昧な答弁」と「すり替え」と「前のめり」(東京新聞)
※10:「そんなことより定数削減」首相発言 野党側“政治とカネ軽視”と追及(日テレNEWS)
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