アメリカには育児休職制度はないの?
パシフィック・アドバイザリー・サービス
代表取締役社長
武本 粧紀子
日本から来たばかりの方に聞かれました。
「日本には、1年ぐらい育児休業制度がありますが、アメリカにはないのですか?」
結論から言うと、日本のような手厚い育児休業制度はありません。
日本では、産前産後休暇は、労働基準法で規定されており、「女性労働者の出産前後の身体的な回復を目的とした制度」です。産前は出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から、産後は出産翌日から8週間まで取得が義務付けられています。(医師が認めて、本人の希望がある場合には、産後6週間)。(参考文献:労働基準法における母性保護規定、厚生労働省)
産前産後休暇では、雇用主が給与を支払う、という規定はありませんが、生活費を保証するために健康保険から「出産手当金」が支給されます。出産手当金の支給額は、原則として休業開始以前の直近12ヶ月間の平均標準報酬月額を30で割った額の2/3相当が1日あたりの支給額となり、休業した日数分が支払われます 。また、これとは別に、健康保険の被保険者が出産した際には、出産費用として1児につき50万円(産科医療補償制度加算対象出産の場合)が「出産育児一時金」として支給されます 。(参考文献:出産したとき 【出産育児一時金(家族出産育児一時金)、出産手当金】、 日本年金機構健康保険組合)
日本には、男性労働者に育児参加を促すための法律「産後パパ育休(出生時育児休業)」という制度もあります。子の出生後8週間以内に、男性が最大4週間まで休業を2回に分割して取得できます。雇用主はこの間の給料を保証する義務はありませんが、この期間に支給される「出生時育児休業給付金」が、育児休業給付金と合わせて賃金の80%になり、社会保険料免除・非課税の仕組みにより、実質的に手取り額の10割相当となるよう設計されています。(参考文献:「日本の育児休業制度 産前産後休業 育児休業給付金」、あしたのチーム株式会社)
しかも、育児休業があり、子が1歳になるまで(特定の要件を満たせば最長2歳まで)取得できる休業制度もあります。
この場合も雇用主は給料を保証する必要はありませんが、育児休業補償金という所得補償の制度があります。「雇用保険に加入しており、育休取得後に職場復帰する予定の労働者」を対象にした制度です。この収入は所得税の対象になりません。また、育児休業期間中は、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料といった社会保険料が、労働者も雇用主も免除されます。したがって、給料がほぼ全額保証されることになります。(参考文献:育休中の給付金が手取り10割とは?要件や期間を解説、マネーフォワード)
アメリカでは、州によって多少規定は違いますが、そもそも「女性労働者」のみを保護するための産前産後の規定はありません。生活費を保証するための「出産手当金」の支給もありません。
連邦法で規定されているFMLA(Family and Medical Leave Act:家族医療休暇法)では、産休だけではなく、子の誕生や養子縁組、自身の重篤な健康状態、または家族の介護(配偶者、子、親)の為に、一年間に12週間まで仕事を休職することが可能であり、しかも、同じまたは同等の仕事に復職することを保証しています。
ただ、対象者は「従業員が50人以上いる民間企業、従業員数にかかわらず、公的機関や教育機関である必要があります 。次に、FMLAを取得する従業員が1年以上勤務しており、直近12ヶ月間に1,250時間以上勤務している必要があります 。(参考文献:Family and Medical Leave (FMLA), U.S. Department of Labor)
FMLAでは産休などでの給料保証はありませんが、カリフォルニア州やニューヨーク州のように、州レベルで多少の給料保証をしている州もあります。Paid Family Leave(PFL:有給家族休暇)と言います。
カリフォルニア州は、「従業員の給与から天引きされる拠出金によって運営」されており、2025年8月現在、所得に応じて賃金の70-90%を最長8週間まで補償します。(参考文献:California Paid Family Leave, California Civil Rights Department)
ニューヨーク州は2025年8月現在、「有給産前休暇」(年間20時間)をすべての民間企業に義務付けています。(参考文献:Money in Your Pockets: Ahead of January 1, 2025 Start Date for First-in-the-Nation Paid Prenatal Leave, Governor Hochul Announces New Campaign to Mobilize Eligible New Yorkers, New York State)
もう気づかれたとは思いますが、カリフォルニア州でもニューヨーク州でも給料を保証する制度があるのは、産前産後の休暇のごく一部であり、日本のように一年間もの育児休暇制度はありません。
「ジェンダー平等」のため、パパに対する法律もありません。FMLAでも、産前・産後何週間、という規定はありません。私の周りでは、産前産後の休暇を取得するときは、バケーション(有給休暇)とシックデー(疾病休暇)を貯めておいて、それをFMLA休職中に使用し、給料に充てていました。また、ドクターストップのかかる、出産前1週間ぐらいまでは仕事をしており、出産後残りの11週間ほどを取得する、というのが普通でした。私が息子を出産した時にも、産後6-8週間で職場復帰をしました。
では、アメリカで育児休業をしたい場合はどうすれば良いのでしょうか?
まず、金銭面では、お給料の保証はないので、休職中の生活費を貯めておく、パートナーと話し合って、その間の生活費を出してもらう、ということです。
1年も職場から離れるつもりであれば、一度退職する必要が出てくると思います。退職前に実力をつけておいて、元のポジションに再雇用されるとか、休職中に勉強して、それ以上のポジションに新たに雇用される必要があります。
ジェンダー平等を目指すのであれば、女性もそれなりの覚悟が必要なのです。
記事の無断転載を禁じます。
———————————————
35年以上、PASは雇用主さまのバイリンガル・バイリンガル以外の人材探し、候補者さまのお仕事探し、人事コンサルティングを日系企業さまや個人事業主さまの為に行ってきました。シカゴとシカゴ郊外はもちろん、中西部のお客様のニーズにもお答えしてきました。
NEW! バイリンガル・輸入エージェント:イリノイ州Wood Dale
NEW! バイリンガル引っ越しコーディネーター:テキサス州ヒューストン
NEW! バイリンガル引っ越しコーディネーター:ワシントンDC
弊社は人材紹介・派遣だけではなく、人事コンサルタントも行っています。ご質問などございましたら、武本粧紀子 (stakemoto@paschgo.com 847-995-1705) までお問い合わせ下さい。