たかが芝生、されど芝生 ― アメリカ郊外に住んで気づいたこと

前回は、アメリカ郊外の家には塀や門がない、ということを書かせていただきました。今回は、シカゴ郊外をはじめ、アメリカの郊外の住宅地でよく見られる「芝生」について書いてみたいと思います。

私が住んでいるシカゴ郊外の住宅地では、冬になると家の周りは雪に覆われますが、春になると一斉に芝が青々と茂り始めます。それぞれの家の芝生は隣の家の芝生とつながっているようにも見え、街全体に一体感があります。

もちろん、アリゾナのように雨があまり降らない地域では、環境への配慮から、無理に庭に芝を植えず、石や砂利を使った庭にしているところもあります。一方、南カリフォルニアのように水不足が深刻な地域でも、郊外には芝生のある住宅地が数多くあります。

以前、カリフォルニア州サンディエゴに住む友人の家を訪ねた時のことです。当時は深刻な水不足で、「芝生に水をやらないように」という警告が出ていたそうです。多くの家の芝生が茶色く枯れている中、一軒だけ青々とした芝生の家がありました。街を案内してくれた友人がその家を指して、「この家、警告を守らずに芝生に水をやっているに違いない」と言っていたのを今でも覚えています。

さて、話をシカゴ郊外の芝生に戻しましょう。

私が住んでいるElk Grove Villageでは、芝の高さにも規定があり、芝や雑草が6インチ(約15センチ)を超えると条例違反になります。違反している場合には通知や罰金の対象となり、改善されなければ自治体が芝を刈り、その費用を家の所有者に請求することもあります。

“Lawns must be groomed regularly. Grass and weeds in excess of 6" are in violation of Village ordinances. Residents in violation may be ticketed, or lawns will be cut at the owners’ expense.”(参考文献:“Lawn Heights,” Elk Grove Village, Community)

なぜ、そこまで芝生の高さにこだわるのでしょうか。

もちろん、街の景観をきれいに保つという理由があります。しかし、こうしたルールを見ていると、芝生は単なる個人の庭ではなく、地域全体の住環境の一部として考えられていることがわかります。

そして、こうした考え方は芝生だけに限りません。家や敷地そのものについても、きちんとメンテナンスすることが求められています。

お恥ずかしい話ですが、わが家でも以前、庭にある物置小屋が古くなり傷んでいた時、自治体から警告を受け、慌てて撤去した経験があります。自治体には、住宅や敷地が定められた基準に沿って維持されているかどうかを確認する専門の検査員(Housing Inspector)もいます。(参考文献:“Housing Maintenance,” Elk Grove Village, Community)

では、家が空き家になり、所有者がまったくメンテナンスをしなかったらどうなるのでしょうか。

そのような場合には、自治体から所有者に改善を求める通知が出されます。それでも問題が解決されず、建物が危険な状態になれば、自治体が修理や封鎖を行ったり、場合によっては解体などの措置を取ったりすることもあります。(参考文献:“Demolition at 25 Turner Ave,” Elk Grove Village, Community)

アメリカでは、個人の財産や所有権はもちろん尊重されています。しかし、所有権があるからといって、周囲の住民の安全や地域の環境を害するような状態をそのまま放置してよい、というわけではありません。

アメリカにも空き家問題はあります。ただ、日本と比べると、自治体が住宅や土地の維持管理にどのように関わるのか、その考え方や介入の仕方には違いがあるように感じます。

芝生の高さから始まった話ですが、考えてみると、そこには街の景観、住環境、近隣住民への配慮、そして個人の所有権と地域社会との関係までがつながっています。

「たかが芝生」と思っても、「されど芝生」。

何気なく目にしているアメリカ郊外の芝生も、実はアメリカの地域社会の考え方を映し出しているのかもしれません。

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