幹部選考を「経営の意思決定プロセス」として設計する ─ 「失敗しないための幹部職採用プロセス」(全4回シリーズ 第3回)
Japan Intercultural Consulting
シニアコンサルタント/シカゴ代表
川平 謙慈(Ken G Kabira)
幹部・役員採用の成否は、「誰を選ぶか」以前に「どう考え、どう決めるか」で決まります。
優秀に見える人材を採用したにもかかわらず、期待された成果が出ない。その原因の多くは、幹部選考を単なる人事施策として処理し、経営としての意思決定プロセスを設計していない点にあります。今回は、幹部選考を経営判断プロセスとして再設計するための「戦略起点の3段階アプローチ」を整理します。本連載は、幹部・役員採用を「人を見る行為」ではなく「経営上の重要な意思決定プロセス」として捉え直すことを目的とした全4回シリーズです。
第1回では、日本企業の幹部採用がポストありき・抽象的な人物要件のまま進みやすい構造的背景を整理しました。続く第2回では、戦略要件が曖昧なまま選考を進めること自体が、金銭的損失や競争力低下といった“見えない経営リスク”を内包していることを示しました。
では、そのリスクをどうすれば最小化できるのでしょうか。答えは、幹部選考を戦略 → 選考 → 実行まで一気通貫のプロセスとして設計することにあります。
■ 第1段階:戦略的プランニング ―「何を成し遂げる役割なのか」
最初に行うべきは、「どのような人物が欲しいか」を考えることではありません。まず明らかにすべきなのは、その幹部が率いる事業・組織が置かれている状況です。ここで有効なのが、マイケル・ワトキンス氏のSTARSモデルです。(※1)事業は現在、「Startup」「Turnaround」「Accelerating Growth」「Realignment」「Sustaining Success 」のどの局面にあるのか。局面によって、求められるリーダーシップ、意思決定のスピード、優先課題は大きく異なります。
例えば、Turnaround(立て直し局面)であれば、業績悪化や組織の機能不全がすでに顕在化し、「変革が不可欠である」ことが関係者の共通認識となっている状況です。この局面で求められる幹部は、短期間で状況を診断し、前例にとらわれず厳しい意思決定を下しながら早期に成果を出すことが期待されます。スピード、決断力、そして不安定な環境下でも組織を率いる強いリーダーシップが鍵となります。経営再建の未経験者を採用すれば当然成功の確率は低下しやすくなります。
一方、Sustaining Success(成功維持・発展局面)は、事業が好調で組織も安定している段階ですが、現状維持に陥るリスクを内包しています。この局面の幹部には、既存の強みを損なわずに前任者の後を継ぎ、関係者の信頼を得ながら次の成長機会を見極める力が求められます。急進的な改革ではなく、慎重な意思決定と中長期視点での戦略眼が重要になります。
この状況分析を踏まえ、短期(例:最初の12か月)と中長期で新任幹部が取り組むべき戦略的優先課題を明文化します。実務上は、「Your Strategic Priorities(あなたに期待する戦略的課題)」といった一通のレターとして整理すると、経営側の期待が明確になり、関係者間の認識ズレを防ぐ効果があります。
■ 第2段階:ターゲット型サーチと評価 ―「誰が最適なのか」
次に、この戦略的優先課題を起点として、候補者プロファイルを設計します。ここで初めて、「どのような経験・スキルを持つ人物が必要か」が具体化されます。重要なのは、職務経歴や専門スキルに加え、
どのような組織文化で力を発揮するタイプか
何に動機づけられ、何でつまずきやすいか
といった文化適合性や動機要因まで含めて定義することです。
この2段階目が不十分なままヘッドハンターに依頼すると、候補者比較の軸が定まらず、「印象」や「相性」といった曖昧な基準に評価が流れやすくなります。むしろ、戦略要件と候補者プロファイルを固めたうえで初めて、適切なサーチパートナーを選定・ブリーフィングすることが重要です。また、事業の現状が明確化されていて、具体的な候補者像があることで、ヘッドハンターも、より的確な人選と候補者への働きかけが可能となります。
外部からの選考でなく、内部昇進で幹部を登用する際にも、このように状況を冷静に整理し、適任者のプロフィールを明確化することは、事業を成功に導くうえで有益です。
最終候補者の面接では、事前に設計したプロファイルに基づく詳細なインタビューガイドを用い、全員を同一基準で評価します。属人的で場当たり的な面接を排し、経営判断に耐えうる厳密さを担保する必要があります。
■ 第3段階:オンボーディング設計 ―「どう成功させるか」
そして忘れてはならないのが、選んだ後の設計です。
幹部採用は「内定=完了」ではありません。むしろ、そこからが本当のスタートです。戦略的優先課題と選考プロセスでの評価結果を踏まえ、着任後の意思決定、ステークホルダーとの関係構築、初期の打ち手をあらかじめ想定したオンボーディング計画を準備することが、立ち上がりの成否を大きく左右します。詳細については、次回の最終回で掘り下げます。
幹部・役員選考を戦略起点の3段階プロセスとして設計することは、特別な手法ではありません。それは、設備投資やM&Aと同様に、失敗許容度の低い経営判断に対して、本来あるべきプロセスを適用することに他ならないのです。
なお、“Your Strategic Priorities”やインタビューガイドのサンプルをご覧になりたい方は、メールにてお気軽にご連絡ください。
■ 次回予告(第4回)
次回の最終回では、「選んで終わりではない幹部採用」をテーマに、オンボーディングを戦略実行フェーズとして捉える視点、そして第三者が関与することでプロセス全体がどのように整うのかをまとめます。連載の締めくくりとして、最もリスクの低い幹部採用のあり方を提示します。
記事の無断転載を禁じます。
参考文献
(※1) : The First 90 Days: Proven Strategies for Getting Up to Speed Faster and Smarter, by Michael Watkins
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